若き日のスティーブン・スピルバーグ監督(69)について、こんな話を聞いたことがある。

 「仲間内で集まって映画の話に夢中になると、ホントに子どもなんです。スナック菓子のかけらをボロボロとシャツに付けたまま。例えば宇宙船の細部の話なんかはもう止まらない」

 「蜘蛛女のキス」(85年)などで知られ、スピルバーグと交流があった脚本家レナード・シュナイダー氏(享年62)の夫人、チエコさんの思い出である。

 若いと言っても20代半ばの頃。「大人」としては決して見栄えのいい光景ではない。が、そんな稚気があればこそ、多くの傑作が生み出されたことも事実だろう。「E・T・」(82年)のドリュー・バリモアを始め、多くの子役を自在に使いこなすこともできたのもその「童心」ゆえだろう。

 年を追うごとに社会派と言われる作品の比率が大きくなっているスピルバーグ監督が「若いフィルム・メーカーに戻った」気持ちで撮ったのが新作「BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント」(9月17日公開)である。

 孤独な少女が心優しい巨人と心を通わせ、2人の友情がやがては国家の危機を救う物語。「E・T・」をほうふつとさせるファンタジー、スケールも大きい。試写で見た原点回帰の作品には心洗われる思いがした。

 日本語吹き替え版で主役の少女ソフィーの声を担当しているのが人気子役の本田望結(12)で、試写後にインタビューする機会があった。4歳から芸能活動をしているからもう8年。それでも、少しもスレたところがない。スピルバーグ監督の「童心」とリンクするような気がして再び心洗われた。

 ひと昔前の撮影現場では、子役のやんちゃぶりにスタッフが手を焼く場面にしばしば遭遇したが、確かに最近の子役は時としてわがままを言う大人の俳優より、よほど行儀がいい。ドラマ「家政婦のミタ」(11年)で注目され、フィギュアスケートでも活躍する望結ちゃんはその典型だ。

 小学生最後の夏休みに声優初挑戦。それもディズニー映画とスピルバーグ監督が初めてタッグを組んだ作品で、ソフィー役のルビー・バーンヒル(12)も半年掛かりのオーディションを勝ち抜いた新人である。初物づくしの大舞台に望結ちゃんは興奮気味だった。

 「憧れのディズニーさん、誰もが知っているスピルバーグ監督ですもの。オーディションに行くときはもうドキドキで手と足が一緒に動く感じでした」

 世界的大作だけに、人気子役の望結ちゃんもオーディションの関門をくぐっての挑戦だった。

 収録は都内のスタジオに2週間あまり通った。自分のパートだけを吹き込むため、スタッフはブースの外から指示を出す。文字通り1人きりの作業である。

 「お風呂にも1人で入れない方なので、落ち着きませんでした。でも、ソフィーちゃんがあんまりかわいいんで、どんどん引き込まれました。人見知りなほうなので、好奇心旺盛なソフィーちゃんには励まされる気がしました」

 準備も怠りなかった。

 「声にはメリハリをつけて、自分を出さないように。見終わってから『あの声本田望結ちゃんだったんだ』って言われるくらい成り切るように頑張りました。(日本語版の)監督さんに言われたことや自分で考えたことを書き込んでいったら台本にはもうスペースが無くなるくらいでした。ドラマや映画ではセリフは頭に入っているので、そんなことはないんですけど。声優さんの仕事は初めてでしたから」

 お手本のような姿勢ではないか。

 姉・真凜(14)が今年のフィギュア世界ジュニア選手権で優勝した。

 「たまにお姉ちゃんに敬語使っちゃうんですよ。すごく偉い人のような気がして。文部科学省の表彰で一緒になった卓球の伊藤美誠さん(15)とお姉ちゃんが仲良くなったので、リオ五輪の応援にも熱が入りました」

 伊藤がシンガポールの格上選手を倒して決めた団体戦銅メダルの瞬間、本田家はどれほど盛り上がっただろうか。目に浮かぶ。

 望結ちゃんもひそかに「世界」を目指している。

 「大きな大きな夢ですけど、今回のお仕事をして、いつかハリウッド映画に出たいと思うようになりました。まずは英語だと思って毎日、妹と英語だけで話す時間を作っているんです」

 いつか、この夢も結実するのではないか。望結ちゃんの邪心の無い瞳を見ていると、素直にそう思えてきた。【相原斎】