一時のブームは去ったものの、相変わらず韓流映画のクオリティーは高い。昨年の「哭声」のようにやや暗めの香りが立った作品に持ち味が出るように思う。そのカテゴリーにある4本の佳作が1月末から集中的に公開される。それぞれに個性的な作品。粒ぞろいである。


 ◆消された女(20日公開)

 韓国には、後見人2人と精神科医1人の同意があれば、本人の意思にかかわらず精神科病院に強制入院させられる法律がある。これを悪用し、財産分与などを巡って、健康な人間の自由を奪う事件が頻繁に起こるという。この作品は16年に起きた拉致監禁事件がモチーフになっている。

 やらせ問題の責任で閑職に追いやられたテレビ・プロデューサーのナムス(イ・サンユン)の元に表紙の焼けこげた手帳が届けられる。殺人事件の容疑者として収監されているスア(カン・イェウォン)のもので、そこには監禁された精神科病院での過酷な生活が記録されていた。

 現場復帰を目指し、スアと対面したナムスに、彼女は事件当日は入院中だったこと、さらには病院長と被害者の意外な関係も話し始める。ナムスは事件の裏に陰謀のにおいを嗅ぎ取って…。

 多くのプロモーション・ビデオを手掛けて来たイ・チョルハ監督はアングルを小刻みに変え、揺らし、スアの証言の妄想と事実の境目を曖昧にする。病院内の薄汚れたコンクリートの冷たさが伝わってくる描写。病院長の振り切れた狂気と良心に揺れる病院スタッフ…。デビュー作はロマンス映画「愛なんていらない」(06年)。正反対の作品とも言えるが、恋愛も妄想もこの監督の心理描写は繊細で、深い。

 絶望から時間を追って生気を取り戻すヒロイン、イェウォンはメークと表情で別人のような顔を見せる。彼女の変化の1つ1つに意味があり、最後にようやくすべてが分かる構成。この好演があるから、終映後にヒザを打つ。


 ◆殺人者の記憶法(27日公開)

 韓国のベストセラー小説を原作に、新鮮な驚きという意味では1番の作品かもしれない。とにかくプロットに意外性がある。ハリウッドがリメークに食いつく類だ。

 主人公のビョンスは少年時代に父を殺してしまう。粗暴な父親は家族に虐待を繰り返し、瀕死(ひんし)となった母親を救うための無我夢中の結果だった。これをきっかけにビョンスのスイッチが入り、彼の中では「殺人」がひとつの解決法となる。主人公は連続殺人犯なのだ。

 獣医師という表の顔を持つ彼も老齢に達し、アルツハイマーの初期症状に見舞われる。「シルミド」(04年)の暗殺部隊リーダー役、「力道山」(06年)の20キロ増量…成り切り俳優のソル・ギョングが今回もすさまじい。救いのない生い立ち、彼の殺人には必ずやむにやまれぬ理由があるとはいえ、ダーク・ヒーローの大枠を明らかに越えている。ギョングでなかったら、この役柄を観客の許容範囲まで持って行けなかったと思う。

 裏の顔からは「卒業」したはずの老境の主人公の周辺で再び連続殺人事件が起こる。現実と妄想を行き来するビョンスは自分が犯人ではないのかという恐怖に駆られる。そんな中で、自分と同じ匂いを持つ男と遭遇。真犯人と確信する。

 だが、そんな思いも時間とともに曖昧になり、知り合いの警察署長も彼の指摘を妄想と一笑にふす。真犯人の方も「同人種」のビョンスに気づき、その一人娘に近づくとともに彼を犯人に仕立て上げようとする。

 記憶、判断力が鈍っていくのを実感するビョンスはボイスレコーダーを使いながら、1人真犯人との対決に向かうが…。

 「サスペクト 哀しき容疑者」(14年)で、さまざまな仕掛けをスタイリッシュに見せたウォン・シニョン監督が、今回も竹林、雪道、廃屋といった背景を巧みに使い、飽きさせない。


 ◆悪女(2月10日公開)

 韓国では「男の世界」だった本格アクションに女性が挑戦したのがこの作品。スタントマン出身のチョン・ビョンギル監督が「渇き」(09年)のキム・オクビンを徹底的に鍛え上げた。冒頭7分間のノンストップ・アクションでいきなり取り込まれる。ヒロイン目線の映像で50人余りの男たちを次々になぎ倒す驚きの幕開けだ。

 オクビンふんするスクヒは幼い頃からマフィアに育てられた言わば「英才教育」の殺し屋で、逮捕された後は減刑と引き換えに今度は国家機関の訓練を受けて特務エージェントとなる。まさに無敵の殺人マシンというわけだ。

 いかつい男たちを相手にしたときの女性ならではの軽量、非力…そこをカバーする工夫や技術がこの映画の妙味になる。さらには韓国ならでは恨(はん)が彼女の原動力となる。

 終盤、終わったと思ったらさらに先がある血みどろの闘い。米映画専門誌「インディワイヤ」が「今年もっともクレイジーな作品」と評したのも分かる気がする。


 ◆コンフィデンシャル 共助(2月公開)

 この作品にも韓国の特殊事情が絡む。北朝鮮からソウルに逃れた武装組織のドンを追って来た北のエリート刑事イム(ヒョンビン)を地元の熱血刑事カン(ユ・へジン)がフォローする。

 イムは本来の目的を隠し、カンも当初は協力よりは監視が主任務だ。が、本当の悪を追う内に2人の間には友情が芽生え…という成り行きだ。

 ジャッキー・チェンが多国籍映画で好んで扱うような題材。おなじみの巧者へジンのキャラも加わってコミカルな味わいも混じる。一方のヒョンビンにとっては「王の涙-イサンの決断-」(14年)に続く除隊後2作目の主演作で、いかにもストイックな風体が役柄にフィットしている。

 人情、アクション、笑いがバランスよく配置され、娯楽映画の王道を行く作品といえる。一方で「マイ・リトル・ヒーロー」(13年)でデビュー、人間の温かさにこだわるキム・ソンファン監督らしい南北融和的な方向は、現状に照らせば違和感は否めない。


 4本それぞれに独特の色彩があり、インパクトがある。高レベルの割に公開規模が小さいのが残念だ。【相原斎】

「殺人者の記憶法」の1場面 (C)2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
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「悪女」の1場面 (C)2017 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & APEITDA. All Rights Reserved
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「コンフィデンシャル 共助」の1場面(C)2017 CJE&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
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