生まれ故郷の尾道を舞台にした3部作「転校生」(82年)「時をかける少女」(83年)「さびしんぼう」(85年)などで知られる大林宣彦監督が、2年ぶりにロサンゼルスで上映会を行い、大勢のファンが集った。ここロサンゼルスでも、インディーズ映画の巨匠として人気を博す大林監督は、20日から開催されるジャパン・フィルム・フェスティバル・ロサンゼルスを前に行われたプレイベントで、「野のなななのか」「この空の花」「ハウス」の3作品を上映し、トークイベントも行った。会場には若きフィルムメーカーの姿もあり、映画作りの極意をたっぷりと学んだようだ。戦争体験者として伝えたいメッセージがあるから今もなお映画を作り続けていると語る大林監督に、人生をかけた映画作りについて伺った。

 大林監督と言えば、日本で初めてチャールズ・ブロンソンやソフィア・ローレンらハリウッドスターを起用したテレビCMを手掛けたことで知られ、60年代から70年代後半にかけて度々ロサンゼルスを訪れていたという。「初めてロサンゼルスを訪れたのは今から50年前。トヨタのCMの撮影のためでしたが、リトルトーキョーのホテルで日本人だと分かると「出て行け、ジャップ(日本人および日系人を指す差別用語)」と叫ばれて追い出され、野宿をしました。日本は平和になったのに、ここではまだ戦争が続いているのだと実感しました。でもせっかく来たのでハリウッド見学に行ったら、そこで行われていたジャパニーズ・アンダーグランド・フィルムフェスティバルで私の初のメジャー作品となった「ハウス」が上映されていたのです。それが私の最初のロサンゼルスでの体験。70年代は、年の半分くらいはハリウッドのモーテルに泊まってリンゴ・スターやカーク・ダグラスらと仕事の後に一緒に遊んだりして、まさに天国でしたね」

 大林監督ほど郷土愛と強い反戦への思いを映像で伝える監督は他にはいない。「戦争を知っている最後の世代だからこそ、私たちが知っている戦争を若い世代に伝えていかないと、また次の戦争が起きてしまうかもしれない。それが、77歳になった今も頑張って映画を作り続けている理由です。シリアスにドキュメンタリーで伝えても、“私には関係ない”と言われてしまうし、私たちも辛い過去は忘れたいから、それをファンタジーやホラーにして趣向を変えてみせる。エンターテインメントとして見せられるのが映画の良いところであり、映画は面白く、楽しく歴史を学ぶ学校です」

 ふるさとを伝えることは、そこにある昔からの人々の暮らしや文化を守りたいから。戦争が起きるとふるさとから人がいなくなってしまう。そうならないために、伝え続ける義務感を感じているという。「まさかと思ったのですが、この1年くらいで日本が再び戦争ができる国になりつつあります。戦後70年たち、戦争体験者もいなくなってくるのですから、本来なら平和0年にならないといけない。戦争は時に人間を凶器にしてしまう。正気の時は素晴らしい人間も戦争によって人間ではなくなる。せっかく人間として生まれてきたのだから、人間らしくないことはしないように、それを伝えるために映画を作っているんです。個性も宗教もまったく違う人間同士が仲良く一緒に生きようと伝えられるメディアが映画なんです。でも最近、私の映画がシリアスになってしまい、ジレンマを感じています。映画の幸福は世の中の不幸と言いますが、私の映画が受け入れられると言うことは、世の中は不幸になっていることなので」

 1945年8月1日に空襲によって多くの犠牲者を出した新潟県長岡を舞台にした「この空の花」で描いた追悼の長岡花火が、終戦70周年を迎えた今年の8月15日にパールハーバーで打ち上げられた。戦争の犠牲者追悼とこれからの世界平和と友好を祈念し、長岡市と米海軍の協力によって実現した。「3年前にハワイでこの作品を上映し、そして今生きてパールハーバーで長岡の花火を見ているなんてたまらない気持ちでした。1発目は真珠湾で犠牲になった人たちのため。2発目は日本の戦没者たちのため。そして3発目は未来の平和のため。3発の花火が打ち上げられました。同じ痛みを持った者同士、敵としてではなく仲間として生きていくことができればという願いが実現したんです。これは新しい一歩ですが、喜んでばかりはいられません。5年前に倒れて死にかけた私が今もペースメーカーによって生き延びている意味はひとつ。私が知っていることを若い世代に伝えること。だからこれからも映画を作り続けます」

 この日はロサンゼルス在住の「青い山脈」などで知られる女優杉洋子と久々に対面。「ぜひロサンゼルスで映画を撮って欲しい」とラブコールを受け、「ぜひ一緒に映画を作りましょう」と力強く握手をして約束を交わした。これからも自身の体験を伝えるという使命を持って映画作りを続けていくことでしょう。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)

人生をかけた映画作りについて語った大林監督
人生をかけた映画作りについて語った大林監督