知られざる秘話に各パートの達人が結集して、一大娯楽作品が仕上がった。

 きっかけはロンドン在住の劇作家マット・チャーマンがケネディ自伝の脚注に注目したことだという。キューバ危機の最中、ケネディ大統領は1113人の米人捕虜釈放の交渉に民間の弁護士を送り込んでいた。

 このドノヴァンという弁護士は保険法の専門にもかかわらず冷戦時代にはソ連のスパイを弁護、そのスパイと、墜落によって捕らわれた米人パイロットの交換をも実現していた。

 良き家庭人で人並みに臆病な弁護士を支えたのはシンプルな正義感だ。祖国に忠義を貫くソ連スパイに共鳴し、若きパイロットの将来を思う。プロのスパイ戦をかいくぐり、交渉を粘り抜く。映画はこの交換秘話にスポットを当てている。

 「ノーカントリー」のコーエン兄弟が共同脚本で参加して巻き込まれ型スリラーの色合いを濃くし、スティーブン・スピルバーグ監督がテンポ良く物語を運ぶ。冷戦下のベルリンを灰色とセピア色で描く映像には隙がない。職人技だ。市井の弁護士がにじませる信念と正義。「フォレスト・ガンプ」のトム・ハンクスだから間違いない。【相原斎】

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