15年前に文学賞を1度受賞したきり長い長いスランプに陥っているダメ男の良多を阿部寛が、抜けているようで結構鋭い母淑子を樹木希林が演じている。

 物語の設定は台風が近づいてきた一晩、舞台は団地…とピンポイントなのだが、2人の距離感、会話のテンポ、小さな出来事、いろんなところに普遍性を感じさせる。良多の元妻(真木よう子)と息子(吉沢太陽)や、良多の妹(小林聡美)ら、登場人物の誰かのどこかに共感を覚える。共感は安心感でもあり、自分の家族を思った時の苦しさでもあり、後ろめたさでもある。

 母がカルピスをコップに入れ、冷凍庫で凍らせて自家製シャーベットを作る。良多は「固すぎるよ。冷凍庫のにおいが移ってる」と文句をぶうぶう言いながら、結局全部食べる(というか食べてあげる)。良多が帰った後、またカルピス氷を作る母…。こういう小さなエピソードを積み重ね、どこかに自分を見つけられるような作品だ。

 阿部と樹木は、同じく是枝裕和監督の「歩いても歩いても」(08年)でも親子を演じている。そういえば同作でも息子は良多、母はとし子だった。チョウは死者の生まれ変わり、という母の言葉も再び出てくる。【小林千穂】

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