演劇界の注目の的、劇団☆新感線「髑髏城の七人 Season花」を見てきた。客席が360度回転する、日本初の新劇場としてオープンした「IHI ステージアラウンド東京」(東京都江東区)のこけら落とし公演。ダイナミックなストーリーと派手な剣劇で人気の高い演目に、小栗旬、山本耕史ら人気俳優が挑んでいる。

舞台「髑髏城の七人 Season花」(C)2017「髑髏城の七人」花(撮影:田中亜紀)
舞台「髑髏城の七人 Season花」(C)2017「髑髏城の七人」花(撮影:田中亜紀)

 劇場は、1300の客席の周りを360度のステージがとり囲んでいる設計。客席は中華のターンテーブルに乗っかっているような感じで、ひとつの場面を見終わると、ターンテーブルごとゆっくり回されて別のステージと向き合うことになる。髑髏城の内部、水を張った小川の風景、合戦の荒野など、手の込んだセットをあらかじめ組んでおけるため、従来の舞台では考えられなかったスケールでの場面転換が可能になった。

 あいさつ代わりに最初の場面でまず回るのだが、ガタガタした振動はまったくなく、最新鋭エレベーターのようななめらかな動きで驚いた。見ている場面以外のセットはスクリーンの壁で閉じられている。さまざまな映像を投影できるので、客席が動いている間も大きな演出力を発揮する。

「IHI ステージアラウンド東京」の客席
「IHI ステージアラウンド東京」の客席

 正直、3D映画やブランコでも酔ってしまうレベルで三半規管が弱いので、動く座席と映像に慣れるまで苦戦したが、物語にぐいぐい引き込まれるうちに気にならなくなった。止まったらどんなキャストのどんな場面が待っているのか。そちらのわくわく感の方が上回っていて、クラッとくるのも体感アトラクションの一環だと思えば、妙なお得感もある。

 「髑髏城の七人」は、古田新太主演で90年に初演され、さまざまなキャストで7年ごとに5回の再演を重ねてきた劇団☆新感線の代表作。織田信長亡き後、関東に髑髏城を築いて暴虐を尽くす天魔王に、それぞれの事情を抱えた男女7人の武者が立ち向かう物語だ。主演の小栗旬は6年ぶり2度目の登板となる。

 劇団☆新感線のお家芸であるダイナミックな剣劇と、着流し姿で飄々と乱世を渡る主人公の広々とした生きざまが、360度ステージという規格外な舞台機構で大暴れしていて痛快だ。距離を取れる分、全速力で走るシーンが増えたり、見せ場の百人斬りでスピード感が増す新しい演出が実現したり。やっている俳優側は大変だろうが、見ているこちらには疾走感やスペクタクル感が全方位で伝わってくる。山本耕史が演じるキーマンのためだけに何とも幻想的なセットが用意されていて、この空間でしかできない美しい景色にうっとりした。

舞台「髑髏城の七人 Season花」の小栗旬(C)2017「髑髏城の七人」花(撮影:田中亜紀)
舞台「髑髏城の七人 Season花」の小栗旬(C)2017「髑髏城の七人」花(撮影:田中亜紀)

 たまげたのは、ぶっ飛んだ刀鍛冶を演じる古田新太の存在感。3度の主演を含め、テント小屋での初演からこの演目を知り尽くす劇団の看板俳優。出てくるだけで客席をくぎ付けにし、ああだこうだと笑わせまくり、劇場の空気をごっそり持って行く。360度機構とか、もはやそんなことを完全に超越している舞台人の快刀乱麻がかっこよく、これはこれですごいものを見た感。結局はマンパワーという演劇の醍醐味をあらためて実感した。

 公演は1年3カ月のロングラン。上演中の「花」のほか、「鳥」「風」「月」の4シーズンに分け、すべて異なるキャスト、脚本、演出で上演する。劇場も、それを使う人間も、挑戦のスケールが大きくて気持ちいい。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)