脚本家倉本聡氏(80)が舞台演出から退く意向を持っていることが5日、分かった。同氏は、富良野GROUP(グループ)公演「屋根」(来年1月16日から24日まで北海道・富良野演劇工房、同2月5日から7日まで東京・新国立劇場、その後は全国23都市巡演)を手掛けているが、日刊スポーツの取材に対し「年齢的に舞台は難しくなる。『屋根』は遺作のつもりで頑張ろうと思う」と話した。

 「屋根」は、北海道・富良野の開拓小屋で結ばれた農家の夫婦の半世紀以上に及ぶ物語。1つの家族の歴史を追いながら、時代を超えた本当の幸せとは何かを問いかける。初演は01年で03、09年にも上演した。「消費者である都会が幅を利かせ、食糧を作っている農村がないがしろにされて疲弊している。国から使い捨てにされる棄民の話です」と力を込める。

 これまで舞台作品を通して日本のあり方に懸念を示すメッセージを発信してきた。「人間の根源的なコミュニケーションが薄れ、日本人がひきょうになっている。問題から逃げ、覚悟もなくなっている。情けない日本人に対する怒りをぶつけたい」と話した。

 ドラマシリーズ「北の国から」や高倉健さん主演の映画「駅-STATION」などの脚本で知られる。84年に俳優や脚本家を養成する「富良野塾」を主宰して以降、舞台活動も行ってきたが「80歳を超え、体力的に衰えてきた。再来年にやる予定の舞台『走る』を最後に、舞台はもうできないんじゃないかと思っている」と明かした。「走る」の演出は中村龍史氏(64)に任せ、自分は脚本に専念するつもりという。舞台演出からは退くが、ドラマや映画の脚本執筆については「それは分からない」としたが「でも僕も年だからね」と含みを持たせた。【林尚之】