岩井俊二監督(53)行定勲監督(47)が11日、東京・アップルストア銀座でトークショーを開いた。

 行定監督が、95年の岩井監督の長編映画初監督作「Love Letter」と96年「スワロウテイル」で助監督を務めており、2人は師弟関係にある。

 行定監督の新作「ピンクとグレー」が公開中で、岩井監督の新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」も公開を3月26日に控えるが、両作品は「ウソ」という共通のテーマがある。

 岩井監督は「リップ-」で描いたソーシャルネットワークサービス(SNS)を引き合いに、現代における正義の考え方に疑問を呈した。

 岩井監督 ツイッターとかで(批判を)表に言えるようになった。加害者は1人としてつぶやいた意識しかないわけで、でも、それが1つの大きな固まりになって、一個人を攻撃するのが正義なのかと。STAP細胞なんか、まだあるかも知れないわけで、そこの最初の1歩を踏み出した研究者を、ああやって潰して良かったのかと考えると疑問は非常に大きい。正義が勝った、と思っている人がたくさんいると思うと恐ろしいし、正義とかそういうことが人の生活を一瞬で踏みにじることがある。

 さらに創作者として、表現の自由の制限が増す一方の現状に警鐘を鳴らした。

 岩井監督 映画や物語を作る側は、何が正義か悪かとは無関係ではないけれど、違うアングルから見て「それでも人ってすてきだよね」「共感できるところあるよね」というのがあるから「相棒」とか刑事物語が成立するわけじゃないですか。それが、ともすると今の時代は、世論が「人殺しなんか悪で、描いちゃダメでしょ?」と押し流している。シートベルトをしないで運転シーンをやったら、撮影できないような状況が出てきている中、タバコを映像で映すことすらためらわれている今、来年から「相棒」が撮れなくなったりも起こり得る。(表現の)豊かさをどう我々が防衛するのか死活問題。大変なことになる。我々も考えて、あらかじめ防波堤を作っておかないと一斉にいつやられるか分からないのがSNS時代の恐ろしいところ。世論に対し、作家の脳みそで太刀打ちできない戦国時代になってきている。

 行定監督は、公開中の新作「ピンクとグレー」の観客動員が40万人を突破、興行収入4億円を超えた理由を分析しつつ、映画を作る際に冒険をしなくなった今の映画界に苦言を呈した。

 行定監督 若い子たちが見るだろうな、という前提は(Hey! Say!JUMPの)中島裕翔君が主役だし、あった。今の若い人たちが見る映画は、男の子と女の子が出会って、別れるか別れないかしかないストーリーの中で、いかに飽きさせず、巧みに見せて泣けるポイントを作るか、という前提でお客が入っている。そこに並ばないと、お客が入らない前提がある。ここ数本、散々、失敗し続けて、お客が入らなかった。何だろう? と思ったのは、時代が絶対やらないことを決めてやってきたから。今、この原作は選ばない、映画化できないことを成立させたい。それで観客に「映画はこういうものなんだよ」と伝えたかったが、それではどうしようもない。今の1つのフォーマットに習った形で一見、見せておいて、映画の中で気持ちを真っ白にしたかった。観客に映画って、こんなに自由で良いんだね、と新しい扉を開いてもらいたかったのがあった。ヒットしたからいいけど、自分でも、ちょっと「やっちまった感」はあった。(中略)映画は、新しいものを目指す人が作っていくもの。でも今、みんな冒険していない。昔は破綻している映画がいっぱいあったし、それが面白かったし。

 岩井監督も「破綻させてくれる場が減ったし、人も減った。若い人なんか、壊れていていいよね」と同意していた。