震度7を2度記録した熊本地震発生から、明日14日で2カ月を迎える。行定勲監督(47)は、昨年10月に故郷・熊本を舞台に初めて撮影した短編映画「うつくしいひと」を携えて、地震発生直後から全国でチャリティー上映会を開催し続けている。復興に日々向き合う中、見詰めてきた熊本への思いを赤裸々に語った。

 熊本の美しさを伝えるために撮った39分の短編映画を故郷の復興のために使う。4月16日未明の本震で被災した行定監督は、その足で県内の避難所を回る中「うつくしいひと」のチャリティー上映を決めた。4月25日の東京・新宿を皮切りに、12日まで北海道から鹿児島までの全国56カ所で上映会を行い、米ニューヨークでも上映。15カ所には新作の撮影準備を縫って足を運び、あいさつを行った。

 熊本にも頻繁に帰り、益城町や脚本執筆用アトリエを併設した両親の自宅がある南阿蘇村を訪れたが、変わらない惨状に言葉を失った。自宅は高さ約4メートルのガラス張りだったが、ガラスが割れ、夏過ぎまで入れない状況。地元の知人の中には、自主廃業を検討する人もいるという。

 発生当初から、熊本県民が自主再建すべきと訴えてきたが、その光明が見えた。5月21日に熊本市内の「Denkikan」で、入場料500円の一部を義援金にする形で上映を始め、連日、満員の盛況となった。その中、被災した市民が、より甚大な被害を受けた地域の被災者のために自主的に募金までした。

 70歳代の女性からは「熊本城の復興は20年はかかる。生きているうちに見ることはできない思い出の熊本城を、映画で見ることができた」と感謝された。「うつくしいひと」の役割は、チャリティーから県民の心の支えへと変わってきた。

 新たな復興支援策も考えた。1つは「熊本地震復興映画祭」。14年から熊本・菊池映画祭のディレクターを務めるが、熊本市とも連携し、より大規模で復興を軸とした映画祭を毎年開催する計画。2つ目は自ら被災し、避難所を回って聞いた生の声を原案とした熊本地震の映画化だ。

 「熊本地震を題材に熊本に関わりのない人が被災する話。娯楽映画として世界にも通用する映画にする。日本はどこで地震が起きてもおかしくない地震国家。地震が起きた後の現実に直面する、つらさも含めて全てを描き、伝えたい」

 行定監督は最後に、思いを包み隠さず吐露した。

 「国が助けてくれるわけじゃないことが明確に分かった。政治家は言うことも変わるし国をコントロールできていない。熊本人が熊本をバックアップする段階に来ている。地震があったことを忘れさせない状況を作らないといけない」【村上幸将】

 ◆行定勲(ゆきさだ・いさお)1968年(昭43)8月3日、熊本市生まれ。小学生の頃、熊本城内で黒沢明監督の「影武者」のロケが行われるのを見て映画監督を志し、熊本二高から東放学園に進んだ。岩井俊二監督、林海象監督の助監督を務め、00年の長編映画第1作「ひまわり」が韓国・釜山映画祭国際批評家連盟賞を受賞。01年「GO」で日本アカデミー賞最優秀監督賞など受賞多数。代表作は「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)「ピンクとグレー」(16年)など。「タンゴ・冬の終わりに」(15年)など舞台演出も手掛け、今年1月に第18回千田是也賞を受賞。