14ノミネートの大本命「ラ・ラ・ランド」(デイミアン・チャゼル監督)が監督賞、主演女優賞など6部門でオスカーを獲得した一方、作品賞は黒人、性的少数者(LGBT)をテーマに描いた「ムーンライト」(バリー・ジェンキンス監督、4月28日公開)が制した。白人至上主義を訴えるトランプ米大統領の移民政策などへの反発、作品賞発表時の、まさかの受賞作の間違えによる大混乱など例年にない色があった今回のアカデミー賞を、かつてアカデミー賞の現地取材でタッグを組んだ、村上幸将記者と、ロス在住の千歳香奈子通信員が振り返った。

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 千歳 最後の作品賞で受賞作を間違えたことは、米国内でも「前代未聞。この先何十年も語り継がれる」と報じられています。

 村上 とはいえ「ラ・ラ・ランド」も「ムーンライト」も、どちらが取ってもおかしくないと評価されていた。主演男優賞のケイシー・アフレック(「マンチェスター・バイ・ザ・シー」)と主演女優賞のエマ・ストーン(「ラ・ラ・ランド」)も順当。昨年、一昨年と俳優賞のノミネートを白人が占め「白すぎるオスカー」と批判されたことや、トランプ政権への反動があると予測されたものの、結果的には評価された作品が選ばれた。

 千歳 助演男優賞のマハーシャラ・アリ(「ムーンライト」)も、助演女優賞のビオラ・デイビス(「フェンス」)も演技がすばらしかった。俳優賞を黒人と白人で仲良く分け合いましたが、トランプ政権が誕生したタイミングと授賞式が重なっただけで、今年は黒人を描いた作品の当たり年だったとも言えます。

 村上 司会のジミー・キンメルは冒頭から「この国は今、分断されている」「出身じゃ差別しない。年齢と体重で人を見る」などとトランプ政権の政策にくぎを刺したけれど、言いたいことをズバッと言った後は、トランプ大統領にツイートしたり面白くいじった。

 千歳 「反トランプ」というのがハリウッドの総意という感じはしました。外国作品賞も、イスラム圏7カ国からの入国を禁止する大統領令に抗議し、授賞式出席をボイコットした、イラン人のアスガー・ファルハディ監督の「セールスマン」が受賞しました。ただキンメルのトークも、本質は突きながらもトランプいじりは不快なものではなく、さじ加減はうまかった。

 村上 政治を含めた世の中の流れと、映画は無縁ではいられないでしょうが「エンターテインメントの本質は楽しい」というスタンスを貫いた感があった。

 千歳 まぁ…最後で作品賞の受賞作を間違えたことで、全て持っていった感はありますけどね(笑い)

 村上 キンメルが作品賞の発表を間違えたのを受けて、最後に「何が起きたのか分かりません。私の責任だと思います。まぁ…たかが授賞式ですよ」と言い放ったのが、全てじゃないですか? 政治、人種、性的少数者(LGBT)、そしてトランプ政権…さまざまな政治、社会情勢はあるけれど、映画はエンターテインメント。面白いもの、感動する作品、俳優を、しっかり評価する。政治と文化は別、という意思を僕は授賞式から感じ取りました。

 毎年、オスカー像をめぐり、さまざまなドラマが展開されるアカデミー賞。1年後の授賞式に、果たして、どんなドラマが待ち受けているか…。今年が終わったばかりなのに、思いをはせてしまうほど魅力的な舞台は、単なる映画の採点にとどまらない、エンターテインメント界の世界最高峰の舞台である。