敗血症のため先月8日に亡くなった俳優池部良さん(享年92)のお別れ会が29日、都内ホテルで行われた。10年前、おいのカメラマンが撮った素顔そのままの遺影前に献花台が設けられ、会場には代表作「雪国」「青い山脈」「乾いた花」などの映像が流された。喪主美子さんのあいさつや来賓の弔辞もなく、約200人がそれぞれに故人との別れを惜しんだ。

 永遠の二枚目俳優の素顔はおちゃめだった。映画「雪国」(57年)で共演した八千草薫(79)は「ロケでいい写真を撮ったよ、と見せられた1枚が、おでこが強調されたもので、恥ずかしかった」とエピソードを明かした。さらに「怒っている顔を見たことがない。笑顔がすてきで、人を笑わせるのが好きだった」としのんだ。

 同じ映画で共演した岸恵子(78)も「戦友が勝手にいっちゃった」と寂しそうに振り返り「セリフを覚えないしダイコンなのに、存在そのものがすてき」と飾らない言葉で二枚目“戦友”をしのんだ。

 篠田正治監督の印象は強烈だった。メガホンを撮った主演作は石原慎太郎原作「乾いた花」(64年)のみ。「美しくて暗かった」のが起用の理由。俳優として生き方を模索している時期に出会い、「セリフ3行も覚えられないと評判の役者だぞ」と開き直った池部さんに、「あなたの立っている姿はだれもマネできない」と口説いた。実際、10分ワンカット場面をNGなしで撮ったという。唯一だがかけがいのない作品となった。

 [2010年11月29日22時52分]ソーシャルブックマーク