5日に急死した俳優緒形拳(おがた・けん=本名・緒形明伸)さん(享年71)が日本アカデミー賞主演男優賞を獲得した「火宅の人」のカメラマンを務めた木村大作氏(69)には忘れられない壮絶な場面がある。劇中、緒形さんが原田美枝子を平手打ちすると、近くの木の柱まで飛ばされ、額を切ってしまった。「絶対に手を抜かない。気でお芝居する人でした。役になりきって、見る人にそれが本当の姿だと思わせる。自分を出せる人はなかなかいない」。カメラを通して、数々の俳優の演技を見詰めてきたが、特にここ数年の緒形さんの演技は「たたずまいに壮烈さを感じた。死を予感しながら仕事にまい進する生き方をしていた」という。

 撮影中にふと横を向くと、丸めた紙を投げながらニヤリと笑う緒形さんがいた。一方で観察眼の鋭い緒形さんがセットに入ると、細かいミスも許されない緊張感が走った。「仕事に妥協しない半面、あの笑顔は本当にすてきだった。笑顔で現場の緊張感をほぐしてくれた。振り幅の大きさも人間的な魅力でした」と、カメラの中と外の顔を思い出していた。