合成麻薬MDMAをもらい、死亡した女性に渡したとして麻薬取締法違反罪で起訴された俳優押尾学被告(31)が、容体が急変した女性を放置し死亡させたとして、保護責任者遺棄致死の疑いで4日、警視庁捜査1課に再逮捕された。同罪の量刑は最高で懲役20年。昨年8月に発生したこの問題で3度目の逮捕となった押尾容疑者は容疑を否認。しかし、MDMA使用、譲渡に加え、致死事件として立件されことで、悲願の芸能界復帰は絶望的となった。また、同容疑者が同罪で起訴された場合、裁判員裁判の対象になる。

 逮捕容疑は、東京・港区の六本木ヒルズのマンションで昨年8月2日、飲食店従業員田中香織さん(30)と一緒にMDMAをのみ、田中さんの容体が急変したのに適切な救命措置を取らず、放置して薬物中毒死させた疑い。同容疑者は「容体が急変して、そのまま死亡した」と容疑を否認しているが、捜査1課は押尾容疑者が、ただちに救急車を呼ぶなどしなかったことが、田中さんを死に至らしめたと判断したようだ。

 同課によると、田中さんは午後6時ごろに容体が急変。手にけいれんを起こしたり、歯を食いしばったりするようになった。同容疑者は、田中さんに心臓マッサージなどの救命措置をしたと供述しているが、すぐには119番通報をしなかった。その理由について、押尾容疑者は「自分がMDMAをのんだことが発覚するのを恐れた」などと供述をしている。だが、同容疑者が友人や元マネジャーらに「女性の意識が戻らない。至急来てくれ」などと連絡したのが同7時ごろ。同課では田中さんはこのころに死亡したとみている。さらに、同容疑者は複数の知人から「早く救急車を呼べ」と電話で忠告されたが従わなかった。部屋に到着した知人が119番通報したのは午後9時19分。田中さんの容体急変から3時間以上が経過していた。しかも同容疑者は救急隊が到着した際、同マンションの別の部屋へ立ち去っていた。

 同課では、この「空白の3時間」に注目。当初は田中さんが早い段階で治療を受けても高い確率で救命できたかを立証するのは困難とされ、同遺棄容疑の適用になるとの見方が強かった。しかし、捜査1課はあきらめずに田中さんの遺体の病理解剖結果を精査するなどし、複数の医療専門家からも意見を聞き、容体急変後、すぐに通報していれば田中さんが助かった可能性が高いと判断した。

 押尾容疑者は昨年8月にMDMAを使用したとして逮捕、起訴されて、同11月に懲役1年6月、執行猶予5年の判決を受けた。同12月には、田中さんにMDMAを譲渡した疑いで2度目の逮捕。一連の事件で逮捕されたのは今回で3度目になる。過去2度の逮捕は薬物事件だったが、今回は人の死に関するもの。芸能界復帰をもくろむ押尾容疑者だったが、芸能関係者は「過去の例からも人の死にかかわる事件で逮捕された以上、復帰できるとは思えない」と声をそろえる。

 同罪に加えMDMA譲渡罪でも有罪判決を受け、同使用罪の執行猶予が取り消されれば、懲役で相当年数の実刑となる可能性が高い。

 [2010年1月5日9時18分

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