第25回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)が6日、決定した。高倉健(81)が主演男優賞と石原裕次郎賞の2冠に輝いた。半世紀にわたってコンビを組む降旗康男監督(78)がメガホンをとった「あなたへ」で妻の遺志を知り、人生を見つめ直す主人公を演じた。圧倒的な存在感は健在で、初の主演男優賞を獲得。「スタッフ、キャストと喜びを分かち合いたい」とコメントを寄せた。降旗監督は高倉と作り上げた「あなたへ」に込めた思いを明かした。

 高倉は「地味な作品で、この主演男優賞をいただけてうれしいです。映画賞をいただくことで一緒に仕事をした大勢のスタッフ、キャストと喜びを分かち合いたい」とコメントした。

 6年ぶりの銀幕復帰作「あなたへ」には、ある決意が込められていた。映画界の将来を思い、後輩に機会を与えたかった。降旗監督が「僕とメーク、衣装を除けば全員」と言うように、高倉にとってスタッフほとんどが初顔。共演者も草なぎ剛、綾瀬はるか、三浦貴大ら初共演組が並んだ。長くコンビを組む降旗監督との現場を「若い人たちに味わってもらいたい」。これが復帰の大きなモチベーションだった。初共演組には歩み寄って気さくに話しかけ、気持ちを和ませた。ロケ地の旅館の部屋に「お疲れさまでした」としたためた手紙を置いて、綾瀬を驚かせたこともあった。

 映画賞も後輩に道を譲りたい気持ちが強い。01年日本アカデミー賞ノミネートを「若い俳優にもっとチャンスを広げたほうがいい」と固辞。今回も「賞が励みになる若手俳優に取ってほしいという気持ちに変わりはありません」と心境を明かしたが、後輩たちと作り上げた「あなたへ」の2冠獲得に喜びは感じている。映画は8月25日公開から今もロングラン上映中。観客動員は220万人を突破、興行収入24億円に迫る大ヒットを記録している。

 主演作の石原裕次郎賞受賞は、01年「ホタル」以来2度目。「裕ちゃんは粋で洒脱(しゃだつ)な生き方、そしてスター性を感じるおひとりでした。あこがれの人です」。共演は実現しなかったが、同賞受賞で世紀を超えて結び付いた。

 映画スターの存在感を見せつけた2冠獲得。今後にますます期待が高まる。「映画は出会いです。1本でも多く、いい仕事に出会いたいと思っています」。必ずまたスクリーンに帰ってくる。【村上幸将】

 ◆あなたへ

 北陸の刑務所の指導技官、倉島英二(高倉)は、50歳を目前に刑務所に慰問に来た歌手洋子(田中裕子)と結婚。2人は平穏な生活を営んでいたが、15年後に洋子が死去。遺言には「故郷の海に散骨してほしい」と記されていた。なぜ生前、思いを伝えなかったのか。英二は自家製キャンピングカーで総距離1200キロの旅に出て、散骨した時、妻の真意に気付く。

 ◆高倉健(たかくら・けん)1931年(昭6)2月16日、福岡県生まれ。56年の主演映画「電光空手打ち」で俳優デビュー。「網走番外地」「日本侠客伝」「昭和残侠伝」シリーズなどで絶大な人気を獲得。77年「八甲田山」「幸福の黄色いハンカチ」で日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞とブルーリボン賞の主演男優賞。98年に紫綬褒章。99年「鉄道員(ぽっぽや)」で再び日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、ブルーリボン賞主演男優賞に。06年に文化功労者。