腹腔(ふくくう)鏡手術をお勧めすると、最近では「本当に大丈夫ですか?」あるいは「腹腔鏡の手術は恐ろしいです」といった不安の声をよく耳にします。

 この背景には、最近いくつかの病院で報道された腹腔鏡手術の医療事故が大きく影響しているようです。ただし、こうした事例は腹腔鏡手術としてはまだまだ発展途上にある肝臓や膵臓(すいぞう)での手術です。一部では保険で認められていない手術もあったようです。

 大腸の腹腔鏡手術は96年に医療保険で認められ、02年からは進行大腸がんの手術も認可されています。つまり大腸がんに対する腹腔鏡手術が保険承認されて15年近くが経過しており、現在では非常に安全に行える手術になっています。

 この間、使用するカメラや腹腔鏡で使用する道具も急速に進歩しました。現在ではハイビジョンカメラは当たり前であり、4Kあるいは8Kカメラも開発されています。肉眼では見えないような細かな血管や神経が明瞭に確認でき、このことが出血の少ない、繊細な手術を可能にしています。傷が小さいために術後の回復も早く、傷の感染や腸閉塞(へいそく)が少ないことも利点といえます。

 一方、長期的ながんの成績は大丈夫なのでしょうか? 昨年、日本で行われた腹腔鏡手術と開腹手術を比較した研究報告が発表されました。結果は、腹腔鏡手術では早期の退院、社会復帰が可能であり、長期成績では両者はほぼ同等との結論です。

 つまり、術後早期では傷が小さいために回復が早く、がん治療の成績は開腹手術と差はなく、腹腔鏡手術の安全性が確認されました。

 ◆大東誠司(おおひがし・せいじ)1956年(昭31)6月生まれ、岡山県出身。広島大学医学部卒業。広島大学病院、東京女子医科大学病院を経て、93年から聖路加国際病院に勤務。