「どこつかんどるんじゃボケ、土人が」。昨年10月18日、沖縄県東村(ひがしそん)高江地区で新型輸送機オスプレイのヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)建設を巡り、大阪府警の機動隊員が反対する住民に対し「土人」と暴言をはき、問題となった。

 この「土人発言」の背景にはいったいなにがあるのか? 鋭い視点で斬り込むMBSテレビのドキュメンタリーシリーズ「映像’17」、今回は「沖縄 さまよう木霊~基地反対運動の素顔~」と題したドキュメンタリーを29日深夜0時50分(関西ローカル)から放送する。

 MBS報道局番組センターの斉加尚代ディレクター(51)が取材を始めたきっけとなる「デモ」があった。昨年11月3日、大阪市内で「機動隊(沖縄派遣)を偏向報道から護るデモ」が行われた。「土人発言」を擁護するデモには、約100人が参加した。

 問題発言後、ネットの世界では住民が機動隊に対して「暴言」を吐いているという情報が流れる中、デモは沖縄で大阪府警の機動隊員はすさまじい暴力にさらされ、人権が侵害されていると訴えて行進した。

 斉加ディレクターがデモを見ていた沿道の大阪のおばちゃんを取材すると「反対して暴言を吐いている人たちのほうがひどいよね。私だってお客さんからクレームつけられたら言い返すわ」。自らの日常生活に視点を置き換えて、デモに“賛同”していた。

 「デモ参加者のシュプレヒコールの中身にも驚きましたが、デモを見ている沿道の人々の中にはある種、共感する声もあった。普通の人たちがあのデモの声に引きずられていくというのが衝撃でした。これは絶対に番組にしなければいけないと思いました」

 ネットの世界では沖縄の市民運動そのものを「過激」「暴力的」と非難する声が広がっている。個人攻撃も激しい。反対運動に参加する泰真実(やす・まこと)さん(51)には「極左の活動家」「成田闘争で暗躍した暴力人間」「プロ市民」と書き込みが続く。

 米軍普天間基地近くの病院で作業療法士として働く泰さんが市民運動に参加したのは「高齢者の頭の上で戦闘機を飛ばしてほしくない。静かな環境を、ただそれだけです」の思いから。市民運動に参加したのは4年前だ。

 一方的な「攻撃」に泰さんは「プロ市民と色分けするんですよね。お金が目的でやっていると。(市民運動は)沖縄の純粋な気持ちではないと。座り込みすると1日2万円の日当がある。そんな話を(ネット空間で)ずっと流しているんですよ。最初は『?』だったけど、ずっと流していくと信じてしまう人もいるんですね」。学生運動の経験もなく、成田にも行ったことがないが、ネットではデマが「事実」となり「プロ市民」になっている。

 「土人発言」後、基地反対の住民が救急車を襲撃したという動画が拡散した。動画の大破した救急車は沖縄県内ではなく、広島県内の救急車だった。「デマ」はソーシャルメディアで拡散し、ある人たちにとっては「ニュース」になる構図がある。

 拡散する底流になにがあるのか。同番組は徹底的に取材した。昨年10月18日、北部訓練場のゲート付近。ヘリパッド建設に抗議してフェンスを揺らすなどしていた数人の人々に対し、大阪府警から派遣された機動隊員が「どこつかんどんじゃボケ、土人が」と発言した。フェンス内の機動隊員から言葉を浴びせられたのは沖縄出身の芥川賞作家、目取真俊(めどるま・しゅん)さん(56)だった。

 「最初はすぐには理解できなかった。土人という言葉が“老人”に聞こえた。まだそれほど年寄りでもないから、なんで老人? 後から考えたら決して珍しいことではない。沖縄に対する差別の中で南の島の遅れた地域という意味で言われていた」。言葉の根深さ、少数派を無視し、排除する構造、問題発言後の市民運動への強い風当たりを感じ取った芥川賞作家は番組のインタビューに応え、核心部分について冷静な視点で話す。

 番組スタッフも事実を確認するため、核心に迫るため、救急車をめぐるデマを発信した人物にインタビューし、大阪でのデモを呼びかけた福岡県内の市議会議員を直撃する。取材に費やした時間は昨年11月から約2カ月半。斉加ディレクターは言う。

 「今はなにが事実なのか、なにが真実なのか、見えにくくなっている時代だなと感じています。沖縄で基地に反対して座り込む人たちは戦後の歴史の中で抵抗を続けているにもかかわらず、その市民運動を曲げて伝える情報が多い。これは決して沖縄だけの問題だけではなく、ゆがめられた言論空間に私たちが生きているという社会の問題だということを受け止めてもらいたいなと思います」

 振り込め詐欺にはめったにダマされない大阪のおばちゃんが、なぜ「デモ」に共感したのか? 同番組はいまの社会の体質もあぶり出していく。