安倍晋三首相は15日の臨時閣議で、消費税率を予定通り2019年10月に、現在の8%から10%へ引き上げる方針を表明した。経済への影響回避に全力を挙げると強調したが、国民の間には不安が広がっており、「買い控え」による消費落ち込みの恐れもある。既定路線とはいえ2度の延期を経た上の実施で、首相にとっては「追い込まれ増税」だ。日本初の2ケタ増税が1年後に迫り、この日の株価は早くも、前週末終値比で400円以上急落。野党も反発し、混乱は必至だ。

首相は臨時閣議で、19年10月に消費税を8%から10%に上げると正式表明。「少子高齢化という国難に取り組むため、お年寄りも若者も安心できる全世代型の社会保障制度へ転換し、同時に財政健全化も確実に進める」と述べた。14年4月、5%から8%に引き上げた際、景気が悪化した経験を踏まえ、「あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応する」とも訴えた。

重要政策は会見で発表することが多い首相だが、この日、肉声で語ることはなかった。増税は「ときの政権が最も手を付けたくない政策」といわれ、首相自身、先月の党ネット番組で「できれば上げたくない」と述べた。アベノミクスによる景気回復をいくら訴えても、国民全体に実感はない。首相が「再々延期」に踏み切るとの臆測もあったが、自民党は昨年の衆院選で消費税増収分を幼児教育の無償化などに充てると公約し勝利した。3度目の延期なら、公約違反に加え、首相自らアベノミクスの失敗を認めることになりかねない。財務省は予定通り10%引き上げへ、国民に周知徹底を加速させたい。がんじがらめの首相は、本当は上げたくない「本音」を封印。追い込まれる形で発表に至った。

増税が国民に不人気なのは紛れもない事実。与党は、来年の統一地方選や参院選への不安を隠せない。

混乱の「前兆」は早くも発生。15日の日経平均株価の終値は、前週末比423円36銭安の2万2271円30銭。食料品や小売りなど増税の影響を受けやすい銘柄の売りが、目立った。

中小店舗でクレジットカードなどでキャッシュレス決済をすれば、2%分のポイントを還元する施策にも疑問が出ている。現金商売もある中小店舗でキャッシュレス化が浸透するのか、混乱は起きないのか。そもそも論で混乱しそうだ。

経済は「生きもの」でもある。菅義偉官房長官は会見で「リーマン・ショックのようなものがない限り引き上げる」としながらも「最終決断は状況を見ながら判断する」と、経済危機時の見直しに含みを残した。「買い控え」は、8%引き上げ時より強まるとの見方がある。混乱と困惑の増税となりそうだ。【中山知子】