大阪府の学校法人「森友学園」問題の一連のスクープを報じた後、異動を命じられたとして昨年8月に31年勤めたNHKを退局した、大阪日日新聞論説委員・記者の相澤冬樹氏(56)が日刊スポーツの取材に応じた。相澤氏は8日の文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」(月~金曜午後1時)に生出演した際「僕はNHKを今でも愛しています。(国民の)受信料で支えられる公共放送は、あっていいと思う」と語った。一方、NHKは著書「安倍官邸vs.NHK:森友事件をスクープした私が辞めた理由」(文芸春秋社)に対し「虚偽の記述がある」と反論している。相澤氏は愛と並行し、古巣が変わったターニングポイントを語った。【村上幸将】

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-今でもNHKを愛していると言える理由は

相澤氏 やっぱり31年間勤めていて、その中で恩恵も受けているんですよ。NHKという大組織、大看板があり、その記者であるということで会ってくれる人、話してくれる人はいるわけですよね。受信料で31年間、給料をもらい、取材費を使ってきた…それは膨大なものに上るはずです。受信料は当然、視聴者が払ってくださっているものですから、視聴者に支えられてNHKが存在し、私自身が存在する。31年間、鍛えられて今の自分の記者としての存在があると思うとね、たまたま組織に切られちゃったからといって、全てがけしからん、大嫌いと言うわけにはいかないですよね。長く付き合っていた女の子に振られちゃったけど、今でも好きです、という感じ(苦笑)。NHKの中で、いろいろな仕事をしてきた中で、自分なりに良い仕事が出来たというものが幾つかあるわけで、自負心もあるわけで。それはNHKという組織があってやらせてもらった。

-NHKが変わったターニングポイントはどこだと思う

相澤氏 何がターニングポイントだったかと考えると、15年3月に「ニュースウォッチ9」の大越健介キャスターを、翌16年3月には「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターを外しちゃった。誰が見ても、おかしな外し方だったでしょ? 内部の人間だって、何の説明もないですよ。だけど、誰が見ても、あぁ…切られたんだな、と思ったですよ。もったいないですね。あの2人は、NHKの財産だったはずなのに。

-大越氏は「サンデースポーツ」のキャスターになった

相澤氏 「ニュースウォッチ9」のキャスターをやった人を、スポーツ番組のキャスターにするって、普通はないですよ。大越さんは、たまたま昔、自分も野球をやっていたスポーツマンだから一応、はまってはいるんですけど。あの辺から、おかしくなってきて…。でも、それは僕が、自分でニュースの現場に行って感じるものでは、まだなかったんだけど、森友学園の取材を通して初めて、自分自身の体験として、これはおかしなことになっているなというのを感じましたし。また、私が辞めた後の18年8月に、安倍晋三首相が自民党総裁選の立候補表明した時の桜島前からの中継がよく言われますけど、9月の北海道地震の際に「死者~人、安倍首相」ってスーパーを出したのも、すごく違和感があった。ついこの前、「日曜討論」でも(安倍首相が)「サンゴを移した」という発言をした。聞いた瞬間に、誰でも「えっ、そんなの、いつやったの?」と思うのに、総理が言った時、司会者は全く、突っ込まないんですよね。普通だったら「総理、それは、いつ行われたんですか?」って聞かなきゃダメですよね。だって、聞いたことのない話だし、現にやっていないんですから。突っ込まないし、しかも収録番組なのに、そのまま流したから、ああやって間違った情報が、そのまま流れちゃってますよね。「政治家が言ったことだから、しょうがない」って、ありえないですよ。

-そういう話では、済まされない

相澤氏 主義主張の話じゃないから。

--事実か、事実じゃないかの問題

相澤氏 そういう意味で、おかしくなっているのは、間違いないです。

-NHKの良さは

相澤氏 NHKの看板で、紅白歌合戦もあれだけ歌手を呼ぶことが出来るし、NHKホールという箱を自前で持っている。ドラマのスタジオも、自前で持っている。民放さんは、あそこまではない。民放の方に、同じものを作ろうとしたら費用がかかりすぎて出来ないと聞いたことがある。NHKは報道だけじゃなくて、いろいろな部分で公共放送であることの恩恵を受けているんです。それを皆さん(視聴者)に還元していく…そこだけ捉えてみると、組織として健全なんですよ。基本的には、NHKは本来のあり方であれば、政治も含めて1番、忖度(そんたく)なく、まっとうに出来るはずなんですよ。今は、あまりにも政治にすり寄りすぎているから、おかしくなっていますけどね。今のままのNHKで良いと言っているわけではないんですけど、どこにも忖度せずに、ちゃんと受信料でもって中立的に運営される公共放送は、僕はあった方が良いだろうとは思うんですよ。

-記者として恩恵を受けたと思うことは

相澤氏 やっぱり、ドキュメンタリーをやる放送枠はいっぱいありますし、それを支えるスタッフ、ディレクターやカメラマンも、いっぱい優秀な人材がそろっていますから、支えられて仕事をしました。番組は1人じゃ出来ませんから。NHKの記者として民放、新聞社といった他社の記者とお付き合いしていると分かるんだけど、NHKは政権に弱いかもしれないけれど、民放はスポンサーに弱い。新聞もそういうところがある。例えば、企業批判的な記事って出にくいんですよ。それは、ずっと見ていて感じるので。やっぱり、NHKという存在は、いるよな、と。不透明になっちゃっているのは、報道…特に政治絡みの報道に関わる部分だけですから。

-著書の出版後、NHKの現場から「もっと書かないのか」と反響があった

相澤氏 今、NHKの報道、放送がおかしいという気持ちは、NHKの中の、現場にいる人間が実は1番、思ってますよ。みんな、報道のプロとして長年、仕事をしていて、やらされているわけだから。例えば、改ざんさせられた近畿財務局の職員が思い詰めるのと同じですよ。そんなこと、ありえないと思って、やらされているわけだから。やっぱり、組織の中だから、なかなか声に出せないけども、でも思っているわけですよ。だから、私の本はNHKの中の書店で、すごく売れたんですよ。「売り切れ 入荷待ち中」という札が出て再度、入荷したら、それも完売したそうです。何で僕が分かるか…それはNHKの中に、教えてくれる人がいるからです。

-今後も、森友学園問題は徹底的に追及していく

相澤氏 ただ…これは、正直言って、成果を出すのが、ものすごく難しい話なんですよ。新事実を、ほじくりだすのが…ね。問題が終わっていないぞ、おかしいままだぞ、ということを言っていきますけども、あまりそれを言うと、もう明日にでも次のネタが出るんじゃないかと誤解される方がいらっしゃる。そういうものが今、手元にあって、言っているわけじゃない。本当は私1人じゃなくて、他の記者にもぜひやって欲しいと思うんですけども。この問題はもちろん継続しつつ、全く別の話も記者として取材していかなければいけないと思います。