女手一つで育てた母だから、その心情が手に取るように分かった。

 10月3日。DeNA綾部翔投手(20)が中日戦で初登板初先発した。

 すでにリーグ3位が確定し、クライマックスシリーズ(CS)出場が決定。1軍で出番がなかった高卒プロ2年目の綾部にチャンスがまわってきた。

 初回、2三振を含む3者凡退で好スタート。2回以降、毎回安打を許したものの、得点は与えず5回4安打無失点の好投でプロ初勝利を挙げた。決勝本塁打を放った新人の細川成也外野手(19)と一緒に、お立ち台に上がると「ドキドキ、緊張、不安がありましたけど、ファンの方の声援が勇気になって自信を持って投げられました」。堂々たる投げっぷりに、本当に緊張していたのかな? そう思わせるほどだったが、母・麻衣子さん(44)には分かっていた。

 初登板の知らせを受け、茨城から横浜スタジアムに駆けつけた。スタンドから見守ると、すぐに気づいた。マウンドで投球間のたびに、両足でぴょんぴょんはねる姿に「昔からああやって飛ぶときは、すっごく緊張しているとき。きっと不安なんだろうなぁと思って見ていました」。少年野球のときに知った息子の癖だった。そんな不安を抱えながら、落ち着かせて必死に投げた83球。ようやく手にしたウイニングボールを綾部は「お母さんが女手一つで育ててくれた」と、試合後に直接手渡し。最高の親孝行となった。【DeNA担当=栗田成芳】