東京地検特捜部は19日、日産自動車のカルロス・ゴーン会長(64)を、同社の有価証券報告書に自らの役員報酬を約50億円少なく記載した疑いがあるとして、金融商品取引法違反の疑いで逮捕した。

ゴーン会長(64)の突然の逮捕は、関係者にも大きな衝撃を与えた。既に退社した70代の同社元幹部は「会社を再建し、業界の常勝軍団までプロモートした男に何があったのか」と息を切らすように話した。当時の役員会ではゴーン容疑者の指揮下で同時通訳も用意されたが、個別に意見を出したり、指示を仰ぐには、英語でのやりとりを迫られた。円滑な会話と意思決定の確認は、ゴーン容疑者と渡り合い、地位を守るためにも英語が生命線だったという。

2010年から休部になっている同社の野球部関係者は、99年に初来日したゴーン容疑者が野球観戦した際に「野球は日本の文化だ」と話したことを鮮明に覚えていた。「(サッカーの)マリノスも大事にしているが、フランス人になじみのない野球にも熱かった。なぜこんなことに」。厳しい経営環境の中でも野球部の存続に理解を示したという。

日産の最高執行責任者に就任した当時のゴーン容疑者は45歳だった。来日早々「60代の役員が多すぎる。みんなクビだ」と周囲に迫り、要職に若手を積極起用した。前出の元幹部は「保守的だった会社に新風を吹き込んだ」と振り返る。「今、自分が60代となってお金の問題で変節したとしたらあまりに残念だ」。改革の同志は、逮捕報道を今も信じられないという。

◆日産自動車 横浜市に本社を置く自動車メーカー。国内ではトヨタ自動車、ホンダに次ぐ第3位の規模。フランス大手ルノーと資本関係があり、16年には燃費不正問題で経営が悪化した三菱自動車を傘下に収めた。ゴーン会長がたばねる3社の企業連合の販売台数は、世界2位を誇る。