日本の精神文化の象徴と言えるお坊さんは、同じ日本人の目から見ても、ちょっと別格な感じがする。

 それがオリンピック選手ならなおさらで、リオデジャネイロ五輪のカヌー・スラローム男子カヤックシングル代表の矢沢一輝(27=善光寺大勧進)は、現役お坊さんとして、海外のメディアからも注目を集めている。

 五輪が行われるリオデジャネイロで合宿を行っていた矢沢は10日、フランクフルト経由で成田空港に帰国した。つかの間の帰国で忙しいスケジュールをこなし、すぐに五輪本番へと出発することになる。その合間を縫って、今回の合宿中にあった出来事として、地元のメディアから取材を受けた話をしてくれた。それが、ちょっと変わった質問で、いかに海外の人からお坊さんが特別な存在として尊敬されているかを感じさせるエピソードだった。

 地元メディア

 お坊さんのあなたから見える、このリオデジャネイロの風景はどう映りますか。

 カヌー競技とはまったく異なる質問に、矢沢は「ええ、どう答えたらいいんだろうって、びっくりしました」と、思い出して苦笑いした。しかし、それでもお坊さんオリンピアンとして、ある程度の取材は想定しいただけに、難解な質問にも慌てずに答えた。

 矢沢

 感じる力というのは、人ぞれぞれです。このリオデジャネイロの街並みをどう感じるかも、皆さんによってそれぞれ違うと思います。この地に来る人も、ここで住んでいる人も、それぞれの場所で人生を生きているのですから、その人生を、いいものにすることが大事だと思います。

 リオデジャネイロでは治安の悪化が話題になっており、海外の五輪取材チームが強盗にあったり、本番を目前に控えて不安視する声は後を絶たない。その矢沢も、同じカヌーのスロバキアチームの選手から、拳銃を車に向けている光景を目にしたという話を聞いており、リオデジャネイロの危険な空気は感じ取っている。

 不安ばかりが先行する声を、地元のメディアも気にしていることが、矢沢への質問から感じ取ることができる。それでも矢沢は「僕は何も危険な目には遭ってませんし、今はそういう心配はしていません」と、きちんと剃髪した頭で、大きな目を輝かせながらにっこり笑った。

 矢沢は北京、ロンドンと3大会連続で五輪出場を決めているが、僧侶として迎える五輪は今回が最初。「お坊さんになったって、海外の選手に伝えたら、質問攻めにあいました。メンタル的にどういう効果があるのか、などです。でも、うまく英語で説明できなくて。そしたら、もっと英語を勉強してって、言われてしまって」。

 ただでさえ、五輪本番を直前にナーバスになっていく五輪選手はたくさんいる。その中で、海外メディアから競技とはまったく異質な質問を、いきなり英語で直撃され、それに対応するのだから、やっぱりお坊さんのメンタルは大したもの。そう思いながら矢沢に取材をしていると、神秘的な雰囲気が漂ってきた。ちなみにスロバキア選手は「お経は毎日読むの」と、なかなかの質問をしてきたという。答えは「ちゃんと練習の意味で読んでます」だった。