<リオ五輪・バドミントン>◇16日◇女子シングルス準々決勝

 五輪は特別じゃなく、他の試合と同じ。みんなを喜ばせるようなプレーが出来ればいい。山口茜はそう思っていた。でも、負けると悔しさがこみ上げた。奥原から初めて1ゲームを取っただけに、なおさらだった。「最初から全力でいこうと思い、それが出来たので悔いはない。これが実力」と涙を拭った。

 試合中は声を出さない、ガッツポーズをしない。勝っても負けても泣かない。それが山口のスタイル。思わず泣いたのには理由があった。生まれ育った福井県勝山市と、社会人になった今年4月から住む熊本県益城町。2つの場所の人たちの顔が思い浮かんだ。老若男女がバドミントンを楽しむ勝山。そこで、幼い頃から男性と打ち合い、技を盗み、力強いプレーを身につけた。町のみんなに「茜ちゃん」と呼ばれ、愛された。

 惜しまれながら移った熊本では4月に大震災が起こる。所属チームの仲間とともに炊き出しに加わると避難所で「茜ちゃん、五輪がんばってね」と声をかけられた。「日の丸を背負う、というのは現実味がない。声をかけてくれるスーパーのおばさんとか“見える人”のために戦いたい」と初の五輪に臨んだ。「いろいろな人の思いを背負ってやってきた。その人たちの思いをかなえられなかったのは悔しい」と泣いた。

 1次リーグでは表情が硬かったが、決勝トーナメントのインタノン戦、続く奥原戦では光るショットを何度もみせた。「最後は自分らしく戦えた。もっとうまくなれるよう頑張ります」と笑顔でコートを去った。【高場泉穂】