メディアや企業の記念ピンバッジを交換する五輪の恒例行事が、今年もリオで繰り広げられている。1番人気は日本のテレビ東京。人気沸騰中のスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」のキャラクター「ピカチュウ」がデザインされたもので、用意した2000個がプレミア化した。IBC(国際放送センター)の同局ブースには「もらえるまで帰らない」と居座ろうとする記者まで出現した。

 1日に何度も声をかけられる。私の胸元に、世界を席巻するピカチュウがいるからだ。テレビ東京の局員からピンバッジを譲り受けた日、1分後に中国中央電視台(CCTV)の記者が寄ってきた。「これ全部あげます」。十数個との交換を持ちかけてきて驚いた。

 女子レスリングの吉田が銀メダルに泣いた18日は、応援席が母幸代さんの取材で混乱していた。「席に戻って!」と報道陣に気色ばむ係員。指示に従い着席したが、追ってくる。「まだ文句あるのか」と身構えると、とびきりの笑顔で「そのピカチュウ、交換してくれませんか?」。まさに「ポケモンGO」の「おこう」(モンスターとの遭遇率を高める道具)状態だ。

 特に中国メディアの間で神格化しており、一時は国際放送センターのテレビ東京のブース前に「ピカチュウ詣で」の人だかりができた。5日の開会式前に、用意した2000個の取材御礼分を除いた分がなくなり「もらえるまで帰らない」と居座ろうとした中国人記者も現れたとか。取材現場に行きなさいよ…。

 ブラジルでは3日に「ポケモンGO」の配信が始まったばかり。レア化に拍車が掛かり、メインプレスセンター前で何百種ものピンバッジを扱う収集家も入手できていない。「100万レアル(約3211万円)で売ってくれ~」が最近、冗談か本気か分からなくなってきた。

 ちなみに、本紙のピンバッジはブル男。「自称築地大使」の世界的認知度は皆無で、裏面にコピーライトがない変顔のピカチュウ(模倣品)にすら交換を断られた。地元の東京五輪で借りを返せるか。【木下淳】

 ◆テレビ東京 ピカチュウを00年シドニー五輪から5大会連続で採用。日本では妖怪ウォッチなども人気だが、ジバニャンも候補には挙がらず「自然とピカチュウという流れになりました」。用意した2000個は開会式前に、選手や関係者などに渡す謝礼用以外はなくなり、同局は「大会前から他国メディアがテレビ東京の部屋を訪れ、部屋の外でスタッフが出てくるのを待ち構えてました。開会式前に『ピンはもうありません』と張り紙をしました」。世界で大流行中の「ポケモンGO」のリリースも人気に拍車をかけたが、「ピンバッジの製作準備は年初で、リリースは念頭にありませんでした」。

 ◆NHK 局のマスコットキャラクター「どーもくん」のデザイン。同局は「番組とは関係ありませんし、見せびらかすものではないので、コメントはありません」。

 ◆日本テレビ 北京五輪から「アンパンマン」のキャラクターをバッジに。今回は2000個製作。「日本が世界に誇るコンテンツ。日本代表という意味で、事務所にもご理解をいただき起用しています」。海外選手も興味を持ち、アンパンマンを通して会話が広がり取材や交渉ごとが円滑に進んでいるという。

 ◆TBS アテネ五輪以来、同局マスコット「BooBo」で統一。豚をモチーフにしたキャラクターで、同局によると、用意した約2000個は「大会前半のうちにほぼ使い切り、他国放送局から問い合わせが多数あります」。「BooBo」をデザインしたのは、東京五輪エンブレム問題で話題となった佐野研二郎氏。

 ◆テレビ朝日 バルセロナ五輪から「ドラえもん」を起用。今回は数千個製作。ドラえもんは東南アジアや中南米、欧州でも人気があり、同局は「世界中で愛されるキャラクターとなり、バッジは高い人気を保持している。国内外の選手団から人気を集め国際交流を深めています」。

 ◆フジテレビ 大会ごとにデザインを変えており、今回は「アマゾン」がテーマ。現地のスタジオのセットとの統一感も意識したデザインに。大会年に合わせ「2016」個を製作。すべてに通し番号を刻印しており、同局は「そのことを喜んでくださる方が結構いらっしゃるようです」。