ワタクシ、中国では女性として生きていきます-。

 中国・武漢で1日に開幕する東アジア杯の取材に来ています。別件も兼ねて上海で2泊後、7月31日に当地へ入りました。武漢天河国際空港から女子代表の午前練習に直行。その後、男子代表の公式会見に回りました。中国取材は3回目。もはや代名詞の渋滞を思い出しながら、スタジアムのある武漢体育中心(武漢スポーツセンター)に到着。「新聞通道」と書かれたメディア受付で、今大会のAD(取材証)をもらう手はずになっています。

 日本協会を通じて「29日午後2時以降にADを取りに来てください」と連絡がありましたが、先に入っていた後輩記者によると、30日になっても完成していなかったようです。翌31日は「もちろん出来上がっていますよ」とドヤ顔の運営サイド。必要事項を記入して申請リストにサインすると、ADを持ってきた女性スタッフ2人にいきなり爆笑されました。自分の顔とADを見比べて、2人はまた顔を見合わせて大笑い。し、失礼じゃないか。

 容姿に自信がある私(笑い)ですが「かっこ笑い、ではなく、かっこ悪いのか」と涙。上海で「ぼったくりタクシー」に遭い(何とか損せずにすんだ)、武漢では尊厳を傷つけられた。ここまで反日感情は根強いのか。ここまで、予想外と言っては無礼なほど、やさしい中国人に多く会ってきたのに…。同行する、入社2年目の後輩女性記者から「泣いチャイナ」と肩をさすられ、うなずきました。

 それでも「前を向き」「やるぞ、頑張るぞ」と「意気込む」のがスポーツ新聞記者です。努めて冷静に「何か問題がありましたか?」と聞くと、ADの写真が自分の顔ではなく女性の顔になっていました。そういうことか。一転、強気になった私は「身分を証明するADで、最も間違えちゃいけないのが顔写真だろ」と怒鳴り…たい気持ちを抑え「無問題(モウマンタイ)」と笑顔。日本語で「スミマセン」と謝られると、また笑顔になったのでした。

 結局、写真が違うまま使用することになりました。会見後の練習。当然、入り口では警備員に止められます。ADを目視し、絵に描いたような「不正を見つけたぞ顔」になった警備員から「君は男だろう。誰のADを使ってるんだ」と、手でシッシッとされてしまいました。別の警備員が来て「今日は仕方ないんだ」と説明してくれましたが、結構な手間。しかも、自分が知る限り少なくとも10人以上の日本人記者が、同様の「被害」に遭いました。

 報道陣ならまだしも、影響はプレーヤーにも及んでいます。男子の北朝鮮代表は全23選手のADが同じ1人の顔だった、との情報が入ってきました。同じ名前が多く(リが6人、キムが3人、チャン、パク、チョン、ソが2人ずつで)運営側が整理できなかった、とのこと。それならキムが8人、イが7人いる韓国も間違えられそうなものですが…。ここからは邪推となりますが、北朝鮮は以前、別の国際大会で全選手の身長と体重が全く同じだったことがありました。今回は同じ顔写真で登録したのでしょうか? と言っても、ピッチ外のADでは、かく乱できません。単純に間違えられただけでしょうか。

 ともかく、自分は女性として9日の閉幕まで過ごすことになりました。その顔写真の人は誰なのか。本人を見つけ、ADの写真を掲載していいか確認すると「写真は絶対にダメよ。その代わり、あなたと同郷の長野県出身で、日本代表と(J1)松本を担当をしている女性記者、と書くのはいいわよ」と言ってもらいました。M川先輩、光栄です! ちなみに自分の顔写真は、発行部数世界一を誇る一般紙の先輩のADに収まっていました。


 ◆木下淳(きのした・じゅん)1980年(昭55)9月7日、長野県飯田市生まれ。04年入社。文化社会部、東北総局、整理部を経て現在スポーツ部。U-22日本代表担当、Jクラブ担当は鹿島。中国出張は芸能担当時代のw-inds.北京公演、長山洋子の上海公演に続き3度目。