日本中が熱狂したリオデジャネイロ五輪が終わり、いよいよ来月からサッカーのW杯アジア最終予選が始まる。リオ五輪では残念な結果だっただけに、A代表にはぜひとも頑張ってもらいたい。

 日本とは別組の韓国では、一足早く22日に最終予選中国戦(9月1日、ホーム)とシリア戦(同6日、アウェー)の代表発表があった。JリーグからはGKでJ2C大阪のキム・ジンヒョン、川崎Fのチョン・ソンリョン、神戸のキム・スンギュ、鳥栖のDFキム・ミンヒョクとG大阪のDFオ・ジェソクという5人が選出。GK陣はJリーグ勢が占め、日本のファンとしても活躍が気になるところだ。

 その中で、今回の選出に人一倍喜びをかみしめている男がいた。G大阪のオ・ジェソクだ。3月、W杯アジア2次予選で初めてA代表に招集。しかし、発表直後のACL上海上港戦で負傷し、無念の辞退となった。ロンドン五輪メンバーとして銅メダルを獲得してから4年。念願のA代表入りを棒に振り、悔しかった。そして、何より一番喜んでくれた家族に申し訳なかった。

 「僕の人生、もう代表はないのかな」

 そんな弱気な思いを吹き飛ばしてくれたのは、日本の仲間だった。G大阪での激しいポジション争い。ライバルは昨季初めて日本代表に選出されたDF米倉とDF藤春だった。2人ともW杯アジア2次予選を経験。「ヨネ君(米倉)とハル君(藤春)は(代表に)入った。やっぱり自分も入りたいと思った」。代表入りを果たした2人からポジションを奪い取る。自分を奮い立たせるこの強い気持ちこそが、きっと韓国にも届くと考え直すことができた。

 さらに、この気持ちを後押ししてくれたのは、長谷川監督だった。ある日の練習中、オはサイドからクロスを上げた。しかし、そのボールの精度は悪く、指揮官から注意の声が飛んだ。

 「そんなクロスじゃ代表に入れないぞ!」

 はっと気付かされた。「監督は練習の1つのプレーから代表を意識していた。考えてくれているんだなと思った」。オ自身の意識も変わった。「もう1度代表に入る」。明確な目標になった。

 今回の代表入り後、長谷川監督から声を掛けられた。「(けがが)怖かったら、(リーグ戦の)メンバー外してもいいぞ」。1度苦しみを味わったオへの配慮。それでも、オは首を振り「この(けがという)壁を乗り越えたい」と宣言した。確かに、負傷は悔しかった。その思いを知っていたから、再選出の報告をした時、母は電話の向こうで涙していた。でも今度は、母に強くピッチに立ち続ける自分を見せたかった。

 オは誰からも愛される。今回も私たち報道陣が「選出おめでとうございます」と言うと「みなさんのおかげです。ありがとうございます」と深々と頭を下げた。リハビリ中の辛い時間でも、カメラを向ければピースをするおちゃめな性格。日本語も流ちょうだ。最終予選の意気込みにも優しさがあふれていた。「日本で成長した姿を韓国のみんなに見せてあげたい」。Jリーグでプレーして4年目。感謝の気持ちが込められていた。自らの努力でつかんだ夢の続き。苦しかった思い、悔しかった思い、全ての思いをピッチにぶつけ、韓国代表として堂々とプレーして欲しい。【小杉舞】


 ◆小杉舞(こすぎ・まい)1990年(平2)6月21日、奈良市生まれ。大阪教育大を卒業し、14年に大阪本社に入社。1年目の同年11月からサッカー担当。今季の担当はG大阪など関西圏クラブ。甲子園球場での売り子時代に培った体力と、真夏の太陽に対する忍耐力は自信あり。