広島に黄金時代が到来した。本拠地で迎えた最終節で湘南に大勝し、第2ステージ(S)優勝を決めた。前半42分にエースFW佐藤寿人(33)が、元日本代表FW中山雅史(48=アスルクラロ沼津)の持つJ1歴代最多得点記録の157点に到達。大記録で優勝に花を添えた。広島は歴代最多(延長なしの34試合制)となる勝ち点74で、年間首位も決定。2季ぶり年間王者へ、チャンピオンシップ(CS、28日開幕)は決勝にシードされる。

 憧れの人へ、父へ-。佐藤は万感の思いで冬空に舞った。優勝に花を添える大記録が訪れたのは前半42分。相手DFとの駆け引きでわずかなシュートスペースを見つけると、清水の左クロスを頭で合わせた。J1歴代最多に並ぶ157点目。中山のガッツポーズをまねると、試合中に仲間に胴上げされた。広島の第2S制覇と、エースの記録達成見たさに埋まった超満員のスタンドは歓喜に沸いた。

 「大好きなゴンさんに並ぶことができてうれしい。でもまだまだ日本サッカーに足跡を残したレジェンドの功績には届かない。数字が並んだだけです。僕みたいに小さくてもできる。背の小さいサッカー少年に大きな希望になってほしい」

 喜ばせたい人がいた。苦労を重ねて、育ててくれた父政人さん(62)だ。その父は昨年6月に大腸がんを発症。知らせを受けた時、目の前が真っ暗になった。「おやじがいなくなるかも知れない」-。死と隣り合わせの恐怖が襲ってきた。手術翌日に千葉県内の病院に駆け付けた。強かった父が、小さく見えた。

 「親もいつまで生きているか分からない。自分が取れるタイトル、記録は生きている間に見せてあげないといけない」。父への思いを込めて、優勝の日に決めた8戦ぶりゴールだった。

 ライバルがいたから、ここまで来ることができた。C大阪に在籍したプロ3年目(02年)。1学年下の大久保嘉人(現川崎F)との定位置争いに敗れた。初めてぶつかったプロの壁。以降、努力を重ねたのは、大久保という高い壁を越えるためだった。互いに別の道を歩んだが、数年前に偶然、上京する新幹線で会った。交わした言葉は「代表で会おう」-。互いに認め合い、通算得点記録でも大久保が1点差に迫っていた。

 「すぐ後ろには嘉人がいた。今朝、目覚めが悪かったんです。重圧と(周囲の)期待を感じていたんだと思う。2人の息子も右足に祈りを込めてくれた。記録は達成したけど、嘉人はすぐ僕を抜くんだろうな」

 まだ旅の途中だ。個人的には歴代単独トップ。チームは2季ぶりの年間王者へ-。歩みは止まらない。【益子浩一】