東北ゆかりのスターたちに生い立ちやターニングポイントを聞く「わたしのツクリカタ」。第4弾は、J2山形の守護神・GK山岸範宏(38)を2週にわたってお届けします。1回目の今回は、小4からGKを始め、J1浦和に入団するまでを振り返りました。体育教師の夢から一転、プロサッカー選手になった原動力を「負けず嫌いな性格」と分析しました。

 子供の頃からずっと、勝ちたい、負けたくないがモチベーションでした。おふくろの性格に似て、負けず嫌いなんです。ガッチリした体は柔道をやっていたおやじ似です。おやじは長男の温厚タイプで、おふくろは末っ子で気が強かった。自分は器用じゃなかった。小学校の頃にハーモニカが吹けなくて、悔しくて夜中まで練習していたと今でもおふくろがよく言います。周りの人ができることを、自分ができないのが悔しかったですね。

 父と祖父が指導者だったので、柔道は1年から6年まで続けました。低学年の頃に熊谷地区(埼玉)の大会で優勝したけど、柔道選手になるつもりはなかった。やらされている部分が大きかったかも。小3からサッカーをやって、GKをやり始めたのは小4から。小学校の先輩にGKのスター選手がいて、のちに武南高で選手権の上位に行く実力を持っている人だった。

 その先輩に憧れて始めたGKだったんですけど、当時は楽しいと思えませんでした。小5の時は6年が2人しかいなくて、練習試合を含めて年間2、3勝しかできませんでした。1学年の違いは大きくて、攻められて失点も多かった。でもGKもサッカーもやめようとは1度も思わなかった。その頃の唯一の自慢です。そのときから悔しいからやんなきゃ、というのが培われたのかもしれないですね。反骨心というか。

 プロに憧れたのは小6で見た天皇杯(91年)決勝です。初めて国立まで見に行って、すごい舞台だな、と。日産対松下で、日産のGKは松永さん(成立、元日本代表)でした。まだJリーグはなかったけど、小6の卒業文集にプロサッカー選手になって日産に入るって書きました。周りからは、なれるわけない、夢を語ってるんじゃないよって、ばかにされました(笑い)。

 中3でJリーグができて、年を追うごとに夢が現実になっていきました。それは近づく現実じゃなくて、プロになれないっていう逆の現実。熊谷高では国体にも選ばれてないし、全国大会にも出場できてない。同学年の浦和学院のGK榎本(達也、現東京)はマリノスに加入したけど、彼をライバルとは思えなかった。母が小学校の先生をやっていたこともあって、大学2年ぐらいまでは体育教師になって、母校のサッカー部の顧問をやるもんだとばかり思っていました。

 転機は中京大3年の時でした。夏にユニバーシアードに出たんですけど、当時1つ上の先輩たちがJクラブの練習にいっていた。そんな話を聞いていたら、俺もそのうち呼ばれるんじゃないか、遠くないじゃないかと思い始めました。

 大学の監督がアプローチしてくれて、名古屋の練習に参加するようになりました。横浜フリューゲルスが消滅して、名古屋にいた楢さん(楢崎正剛、元日本代表)を指導していたGKコーチのマザロッピに見込んでもらいました。大学3年が終わる頃には名古屋から正式にオファーをもらって舞い上がってしまいました。

 大学のサッカー部を退部して契約するか迷って、両親に相談しました。おふくろからは「何のために大学にいったのよ。4年になると教育実習もあるし、必ずやり通しなさい」って言われました。あと「今年断っても来年もオファーがあるから」って。今思えば、おふくろは強気でしたね。

 結局、大学4年になって複数のオファーの中から、地元の浦和を選びました。結果的に退部しなくて正解でした。親の判断に助けられました。4年で主将になって、インカレで優勝できたわけですから。4年間の苦労が報われました。西が丘のスタンドにいた両親と顔を合わせた時は、泣きました。学費から1人暮らしの生活費まで工面してくれていたので。くしくもその日(00年11月19日)は、浦和がJ2からJ1に昇格した日でした。これにも浦和と何かの縁を感じましたよね。(続く)

 ◆山岸範宏(やまぎし・のりひろ)1978年(昭53)5月17日、埼玉・大里町(現熊谷市)生まれ。市田小3年からサッカーを始め、大里中、熊谷高を経て、中京大に進学。00年の大学選手権で関東、関西以外の大学で初の日本一。01年に浦和へ入団し、06年のJ1優勝に貢献。14年6月に山形へ期限付き加入し、J1昇格に導いた。15年に完全移籍。185センチ、88キロ。血液型O。

(5月26日付 日刊スポーツ東北版掲載)

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