元日本代表MF中村俊輔(38)の執念が、劇的勝利を呼び込んだ。ホーム・サガン鳥栖戦。後半43分に先制されながら、1分後の同44分、中村俊が「優しいパス」で同点弾をアシストし、ロスタイムには決勝弾の起点になった。ジュビロ磐田は、昨年6月25日仙台戦以来295日ぶりにヤマハスタジアムでの勝利。3勝1分け3敗で勝ち点を10に伸ばした。

 中村俊が激走した。1点を追う後半44分、FW小川航基(19)の競り合いから生まれたこぼれ球に右サイドで反応。縦にドリブルし、ゴールライン際で鮮やかに切り返した。瞬間、相手DFをかわすと、軽く左を振り抜いた。柔らかいタッチから放たれたボールは、MFアダイウトン(26)の右足にピタリと合った。

 「顔を上げた時に、アダ(イウトン)がフリーになっているのが見えた。頭より足の方がいいと思って優しく出した」

 根拠があっての判断だ。新加入の中村俊は、開幕前に昨季チームが挙げた37得点の全ゴール集を動画でチェックしている。選手1人1人の特徴を頭にたたきこんでいるのだ。アダイウトンには頭ではなく足。チーム最年長38歳の司令塔は、瞬時にそのデータが生かせるすごみを持っている。

 この1点で、サックスブルーのボルテージは最高潮に達した。同ロスタイムには、中村俊が左サイドに展開。最後はアダイウトンのクロスのこぼれ球をMFムサエフ(28)が、豪快に右足で決めた。

 チームとしては、今季初の3バックで連敗を阻止した。逆転勝利は昨年4月10日新潟戦以来。295日ぶりにヤマハでつかんだ歓喜も含め、名波浩監督(44)は「この年でこんなに感動する日をくれて幸せだなと。選手にはただただ感謝したい」と言葉をかみしめた。一方で、中村俊は「自分のミスから(失点につながる)CKを与えてしまったことは一番の反省。チームとしても失点してからではなく、前半からギアをあげられるようにしたい」と言った。その視線は既に、次節のアウェー鹿島戦に向いていた。【前田和哉】