<ナビスコ杯:川崎F2-0札幌>◇予選リーグC組◇5月31日◇等々力

 ドーピング騒動から解放された川崎FのFW我那覇和樹(27)は、問題発生以来公式戦初、406日ぶりに得点を決めて、涙を流した。

 右足に魂を込めた。前半18分、右を駆け上がった田坂から中央の我那覇へ横パスが来た。右足トラップでマーカーをかわすと、ゴールまでの道が開いた。ゴール右隅を狙って右足一閃(いっせん)。加速したボールがネットを揺らす。すかさずユニホームを脱ぎ、両手で背番号9をスタンドに見せるように掲げた。警告を受けてしまったが、1年1カ月ぶりの至福の瞬間。無我夢中でゴールを喜んだ。

 「ここまで本当に支えてもらってありがとうございます」。ヒーローインタビューでは、目を真っ赤にし、声を絞ってサポーターへの感謝の気持ちを伝えた。チームドクターの指示で点滴を受けたことが発端で、ドーピング問題にまで発展した。潔白を証明するための長い日々。サポーターの後押しがあったからこそ、ここまできた。

 CASに訴えを認められるまでの1年1カ月。重圧とも戦った。家族で買い物に出掛けた時に「ドーピングの我那覇だ」との声が聞こえたこともある。それからは、実際に声が聞こえなくても「みんなそう思っているのかな」と思えてきて、外出を避けるようになった。家族との楽しみの1つだった外食も、自然に回数が減った。

 ピッチ外の苦しみは、成績にも直結。騒動勃発(ぼっぱつ)後、まったく点が取れなくなった。代表からも声がかからず、チームでのレギュラーの座も鄭大世に奪われた。「代表は実力がなかったから落ちただけ。やっとスタートラインに立った感じです」。失われた13カ月を取り戻すための我那覇の戦いは始まったばかりだ。【盧載鎭】