横浜は22日、日本代表MF中村俊輔(30)の獲得が失敗に終わったと公表した。横浜の松本喜美男チーム統括本部長がこの日、横浜市内のホテルで中村の代理人を務めるロベルト佃氏と会談し、スペイン1部エスパニョール入りすることを伝えられた。数年来の悲願がかなわなかったショックは大きいが、当面は大型補強に動かず、現有戦力を中心に戦っていく。ただ、交渉の過程で態度が一貫しなかった斎藤正治社長(59)の責任を問う声は大きくなりそうだ。

 獲得失敗のショックは大きい。松本本部長は、代理人から伝え聞いた中村の決断理由を「もともとスペインでやりたい夢があった。来年W杯を控え、レベルを高めていきたいと聞きました。マリノスには愛着もあり、感謝しているという言葉ももらいました」と説明した。斎藤社長は「非常に残念ですが、本人の決断。彼の活躍を期待し、応援していきたい」と語った。交渉過程に悔いはないか、という問いに対し「やるべきことはやったつもりです」と答えた。

 合意寸前まで交渉は進んだ。提示した条件は推定年俸1億5000万円の2年8カ月契約。年俸では今季まで所属したセルティックの半分しかなかった。それでも、中村は了承していた。だが、それ以外の付帯条項を話し合っている際、斎藤社長の答えが土壇場まで二転三転した。最終的には了承したものの、中村側に不信感が生まれた。中村がスペインへ傾く大きな契機をつくり出してしまった。

 この点について、同社長は謝罪の場を希望するも、中村側からは会談への同席を断られた。松本本部長は「条件面の相違や、謝罪が問題ではないと言われました」。決断理由は、あくまで中村の夢。ただ、クラブ内では今後、斎藤社長が交渉に失敗した責任を問う声が出てきそうだ。

 中村獲得のために用意した資金が残るが、大型補強には乗り出さない。中村の存在は別格であり、他の選手を獲得して補えるものではない。すでに練習に参加した元オーストリア代表FWローランド・リンツ(27)の獲得は検討中だが、中村の去就とは別問題。ここ数年、営業面も含めたクラブ全体で中村の復帰を待ち望んでいただけに、今後は中村の実力や人気に頼らない運営へ方向転換する必要がある。

 斎藤社長は「期待値が高かったので計画の修正は必要。早急に立て直しを図りたい」と語った。エスパニョールとの契約満了後のオファーについては「その時きちんと判断したい。マリノス育ちの選手だし、常に検討はする」と慎重に答えた。今後の横浜は「脱・俊輔」がテーマとなる。【飯島智則】