<ナビスコ杯:G大阪3-2広島>◇決勝◇8日◇埼玉

 新エースが男泣きだ!

 G大阪のFW宇佐美貴史(22)が、逆境を跳ね返してチームを7年ぶり2度目の頂点へ導いた。2点ビハインドから、広島を大逆転。2年間のドイツ移籍で不遇の時を過ごした宇佐美は、後半9分の同点弾をアシストした。リーグ戦、天皇杯を含めた3冠へ弾みをつけた。

 泣いたらダメだ。分かっていても、宇佐美はあふれ出る涙を抑えきれなかった。まだピッチでは仲間が戦っている。しばらくして終了の笛が寒空に響いても、立ち上がることすらできない。後半39分に交代し、歓喜の瞬間はベンチで迎えた。子供のように泣きじゃくり、長谷川監督と抱き合った。子供の頃からG大阪のファンで、G大阪で育った男が、ついにG大阪で頂点に立った。

 「正直、2点目を入れられた時に諦めかけました。だから(終了間際には)もう、自分の気持ちを抑えることができなかった。ドイツでいろんな苦労があって、ガンバに帰ってきて、どうしてもタイトルをもたらしたかった。多少なりとも自分自身、背負い込んでいたものがあった」

 いつも見ている大きな背中があった。その背中とは背番号「7」。試合前の入場の際、必ず遠藤のすぐ後ろに立つ。2年間のドイツ移籍では出番を得られず、志半ばで昨季6月に復帰すると、愛するチームが戦っていたのはJ2だった。その頃から続けている習慣だ。「自分の中の決まり事。ガンバを支えてきた人のオーラを感じたいから」。生意気盛りで、憎まれ口をたたくこともある。それでも純粋な22歳。先輩を敬い、謙虚な姿もある。

 まだ夢の途中だ。宇佐美は後半9分にパトリックの同点弾をアシスト。期待された得点はなくても、同22分には独特のリズムのドリブルで決定機を生み出すなど見せ場を作った。遠藤も前半38分に反撃のきっかけとなる貴重なアシスト。新旧の“ガンバの顔”が活躍し、まるで脚本家が描いたような大逆転劇だ。首位浦和を追うリーグ戦、天皇杯と3冠の可能性が残る。

 その大先輩遠藤は言う。

 「数多くタイトルを取れば、ビッグクラブと言われるようになる。優勝したからといってすべてが満足しているというわけではない。リーグ戦でも逆転Vの芽がある」

 そして宇佐美も続いた。

 「ガンバへの恩返しはタイトルを取ることでしかできない。普段からお金を払って見に来てくれるファンの方にも(3冠が)唯一の恩返しになる」

 宇佐美にとってJ2優勝をのぞけば今回が悲願の初タイトル。今大会は5得点でニューヒーロー賞にも選ばれた。ドイツでの屈辱、J2の悲劇を乗り越え、つかんだ栄冠だった。【益子浩一】