ソフトウェア大手SAP創業者の1人であり、米フォーブス誌発表の長者番付2016年版で総資産79億ユーロ(約9640億円)と見積もられているディートマー・ホップ氏(76)。同氏の強力なバックアップを受けたホッフェンハイムが、瞬く間にアマチュアからブンデスリーガへ駆け上がっていったのは周知の事実だが、ドイツ屈指のこの富豪は今、ホッフェンハイムにとどまらず、バーデン・ビュルテンベルク州北西部での支配圏を広げつつある。

 1995年にホップ氏が自身の名前を冠としたディートマー・ホップ財団を創立して以降、毎年約500万ユーロ(約6億1000万円)もの大金が、非営利団体「Anpfiff ins Leben(和訳:人生にキックオフ)」に寄付されている。同団体は、サッカー8つを含む計11のクラブ(他はアイスホッケー1つ、ハンドボール1つ、ゴルフ1つ)に、それぞれ年間40万ユーロ(約4900万円)の支援金を送っており、それらネッカー川流域のクラブと共同で、若手育成に力を入れているのだ。

 そしてもちろん「Anpfiff ins Leben」からの寄付金は、育成年代が利用するサッカー施設“のみ”に使われるわけではなく、送迎バスや寮の維持・管理費、運転手や管理人、指導者、補習講師らへの給料など、ハード面からソフト面まで、すべてのことに有効活用されているという。

 ところで、現在トップチームが4部に所属しているワルトホフ・マンハイムは、上述の8クラブのうちの1つであり、ホップ氏に最も「足を向けては寝られない」クラブである。マンハイムにとって“近隣の小クラブ”に過ぎなかったホッフェンハイムがホップ氏の財政支援を受けて躍進することは、彼らにとっては面白くなく、そのためマンハイム関係者はかつて、ホップ氏がホッフェンハイムを援助することに対し、公然と批判を繰り返していた。

 しかし「人を呪わば穴二つ」とでも言うべきか、その後マンハイムは経営難に陥り、300万ユーロ(約3億6600万円)の負債を抱えることに。しかしこれを一時的に肩代わりしたのは、なんとホップ氏で「返済は利益を出せるようになってからで良いから」と、太っ腹な対応を見せている。

 地元に還元するだけでなく、自分を罵った相手にも救済の手を差し伸べるホップ氏の懐の広さには、感服するばかりだ。