プレーバック日刊スポーツ! 過去の7月11日付紙面を振り返ります。2006年の1面(東京版)は、サッカーW杯ドイツ大会決勝戦でのフランス代表ジダンの頭突き退場でした。

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<W杯:イタリア1(5PK3)1フランス>◇決勝◇2006年7月9日◇ベルリン五輪競技場

 「偉大な英雄」が一夜にして「世紀の愚か者」に転落した。W杯ドイツ大会での現役引退を表明していたフランス代表MFジネディーヌ・ジダン(34=Rマドリード)が、イタリアとの決勝戦で暴力行為で退場処分を受けた。1-1で迎えた延長後半5分、DFマテラッツィの胸に頭突きを浴びせた。家族を侮辱されたとの推測が有力だが、勝負どころでのエースの退場で、試合も1-1からのPK戦の末に敗れた。一夜明けて大会最優秀選手賞(MVP)に選出されたものの、母国フランスをはじめ世界中のメディアがジダンの行為を厳しく糾弾。栄光に彩られた数々の伝説は、最悪の幕切れになった。

 華麗なる伝説が一夜にして色あせた。偉大な英雄が粗暴な愚か者へと転落した。たった1発の頭突きで、ジダンは自らの名誉まで打ち砕いた。一夜明けた10日、世界中から批判を浴びた。ドイツ紙ビルトは「気が狂ったのか」との見出しで厳しく報じた。同モルゲン・ポスト紙は「屈辱的で不名誉なラスト」と嘆いた。

 異変は延長後半5分に起きた。ユニホームをつかまれたことを発端に、イタリアのDFマテラッツィと口論になった。1度はプレーに戻りかけたが、すぐに振り向き相手の胸元に強烈な頭突きを浴びせた。第4審判がビデオで確認する初のビデオ判定で、一発退場。W杯決勝という大舞台、しかも最大の勝負どころでピッチを去った。前半7分にPKを決めて決勝戦通算3得点目を刻んだ希代の司令塔は、自ら2度目のW杯優勝の夢を砕き、現役に幕を下ろした。

 耐えられない暴言を浴びたのだろう。沈黙を貫く当事者に代わり、ブラジルのテレビ番組で読唇術の専門家がマテラッツィの発言をチェック。「おまえの姉さんは売春婦だ」と2回繰り返したと分析した。ロイター通信は「母親を侮辱された」と報じた。一方、英国紙ガーディアンは「テロリスト呼ばわりされたのでは」。静かなる男の突然の暴発に、様々な推測が乱れ飛んだ。しかし、どんな理由であれ暴力は許されない。国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター会長は「彼の気持ちは理解できるが、行為は許すことはできない」と手厳しかった。

 頭突きの直前までは、サッカー史に名を刻む偉大な英雄だった。98年W杯フランス大会決勝のブラジル戦で2得点。母国を初優勝に導き、国民的英雄になった。ユベントスでも代表でも世界の頂点に立った。アルジェリア系移民の貧しい生活からはい上がったサクセスストーリーは、移民国家フランスに希望を与えた。

 4月にW杯後の現役引退を表明。今大会は準決勝まで全盛時をほうふつさせる華麗なプレーで、母国を2大会ぶりの決勝に導いた。英雄が最後に優勝トロフイーを掲げてくれる。多くのフランス国民がそう信じていただけに、失望も大きかった。10日付フランス紙レキップは1面から2ページを割いてジダンを厳しく糾弾。「世界中の子供たちに、あの頭突きをどう説明するのか。偉大な選手に値しない」と酷評した。

 涙ながらに退場したジダンは表彰式にも出席せず、控室で1人ふさぎ込み、無言のまま会場を去った。一夜明けてチームは予定していた地元パリのシャンゼリゼでのパレードを中止。コンコルド広場での顔見せだけにとどめた。自ら起こした事態とはいえ「神に愛された男」とまで言われた不世出の男の最後は、あまりに寂しかった。

▼ジダン過去の乱暴行為

◆平手打ち ユベントス時代の98年2月8日のローマ戦で、相手DFの顔に平手打ちで一発退場。「頭にきてやってしまった」。

◆踏み付け 98年6月18日のW杯フランス大会1次リーグ・サウジアラビア戦で、スライディングタックルした選手を踏み付け、一発退場で2試合出場停止。

◆頭突き ユベントス時代の00年10月24日の欧州CLハンブルガーSV戦で、相手DFのファウルに怒り頭突き。欧州カップ戦5試合の出場停止処分となる。

◆乱闘参戦 05年4月23日のビジャレアル戦で、ラウルとキケ・アルバレスのもみ合いに乱入。平手打ちを浴びせ一発退場。

◆ドアに蹴り 6月18日のW杯1次リーグ韓国戦で、ラフプレーで2枚目のイエローを受けた怒りからドアに蹴りを入れ破壊した。