W杯の正守護神候補が自殺した。ハノーバーのドイツ代表GKロベルト・エンケさん(32)が現地時間10日午後6時すぎ、ハノーバー近郊の自宅から約2キロの踏切で、時速160キロの長距離列車にはねられ死亡した。翌11日にはテレサ夫人によって、本人がうつ病をわずらっていたことと、遺書の内容も明かされた。

 エンケさんは「このような心境にあることを打ち明けられず申し訳ない」と妻に向けて書きつづっていた。08年欧州選手権後、ドイツ代表の正守護神に。最近では9月9日W杯予選アゼルバイジャン戦で、4-0の完封勝利に貢献した。ところが、直後に細菌性の胃炎にかかり、戦線を離脱。同予選の大一番だった10月10日ロシア戦に出場できなくなった。クラブでは同31日のケルン戦で復帰したが、今月14日の親善試合チリ戦の同国代表メンバーには入れなかった。

 代表初招集は97年。カーン、レーマンという大物GKの陰に隠れた存在から、12年かけ、ようやく代表レギュラーに上り詰めた。06年には実の娘を心臓病で失う悲劇もあった。苦境を乗り越え、正守護神を勝ち取るために、自分に過度の重圧をかけていた。主治医のマークサー氏は「実は03年からエンケにうつ病の治療をしていた」と明かした。

 悲報を聞いた同僚や100人以上のサポーターはすぐ、ハノーバーのクラブハウスに集まり、花をささげてエンケさんの冥福を祈った。ドイツ協会のベッケンバウアー副会長は「こんなニュースを聞かされると、他の問題など小さなものだと思い知らされる」と悲しみ、同協会は14日チリ戦中止を決めた。(中野吉之伴通信員)

 [2009年11月12日9時25分

 紙面から]ソーシャルブックマーク