【ニューヨーク28日=吉松忠弘】リオ五輪銅メダルの錦織圭(26=日清食品)には、支えにしてきた自作の詩があった。中学時代に相田みつを風の詩を創作していた。そんな錦織は、今日29日開幕の全米オープン1回戦で世界ランキング97位のベンヤミン・ベッカー(ドイツ)と対戦する。試合は第2日の30日に組まれる見通し。自らを鼓舞してきた言葉を胸に初の4大大会制覇に挑戦する。

 14年にアジア男子シングルス初の4大大会準優勝、昨年はまさかの初戦敗退。天国と地獄を味わった全米に、錦織が戻ってきた。ここまでの道のりの裏には、転機があった。

 08年全仏の時だった。同年2月にデルレービーチ国際で、日本男子史上2人目のツアー優勝の快挙を上げながら、全仏は予選2回戦で敗退。重圧と壁に苦しみ、錦織は初めて両親に「テニスをやめたい」ともらした。その時、母恵理さんは「いつでも だれでも ラッキーはくる」という言葉をメール送信した。

 錦織は中学時代、「いのちの詩人」と言われた相田みつをに傾倒した。相田の詩を模写し、相田流の詩を創作した。「筆ペンに凝っていて、俺もやってみようかなと。何か新しいものを生み出すのが好きだった」。その中の1つが、母のメールの言葉。中1の時に自作したものだった。

 何枚も書いた詩は、ゴミ箱行き。それを恵理さんが拾い、今でも取ってある。錦織は当時、若気の至りで「勝手に拾ってプライバシーの侵害」と怒ったとか。しかし、後にその言葉が、錦織のテニス人生を救った。08年全米は初の4回戦進出。あの言葉がなければ、錦織のその後の活躍もなかったかもしれない。あの詩のように、運も味方に付け、今年の全米でも飛躍する。

 ◆相田みつを 1924年(大13)5月20日、栃木・足利市生まれ。足利中時代に書や短歌に興味を持ち、卒業後から歌人や書家に師事。84年に出版した詩集「にんげんだもの」がミリオンセラー。書の詩人、いのちの詩人と称される。91年、脳内出血で急逝。享年67。

 ▼WOWOW放送予定 29日午後11時55分~、WOWOWプライム。男女シングルス1回戦。生中継。無料放送。放送時間変更の場合あり。