【モントリオール(カナダ)=高場泉穂】この失敗が世界最高得点の元になる? ショートプログラム(SP)首位の羽生結弦(21=ANA)が、フリーでも172・27点でトップに立ち、今季初戦で優勝した。4回転4本を含む高難度のフリーを初めて試合で滑り、8つのジャンプ要素中5つでミス。前戦の失敗をバネに世界最高得点(当時)をたたきだした昨季のNHK杯同様、次戦のグランプリ(GP)シリーズでの完璧な演技を誓った。

 演技を終え10分たっても「ハッ、ハッ」と羽生の呼吸は整わない。リンク裏で「あ~つらかった~」と漏らした。4回転ジャンプ4本を含む高難度のフリーを試合で初めて演じ、ミスを連発。難しさを実感した。「しんどいですよね。でも楽しいし、やっぱり燃えます」。今季初戦で課題を見つけ、笑みを浮かべた。

 今季のフリーは久石譲氏の2曲を使った「ホープ&レガシー」。ピアノの切ない音色に合わせ、前日のSPで史上初めて成功した4回転ループを冒頭で再び決める。続く4回転サルコーも着氷し「気持ちよく」滑り出した。だが、連続ジャンプの4回転が3回転になり、単発の4回転トーループは転倒。最後の3回転ルッツも転ぶなど、目に見えて体がばてていた。

 左足甲の治療のため、4月から2カ月休み、6月から本格的に練習を開始。左足をかばいながら腰も痛め、今大会直前には右足首も痛めた。9月に入ってもペースは「2勤1休」で十分な練習を積めていない。それでも羽生は課題を「体力じゃない」と言い切った。「ジャンプで体力を使ってしまった。1つ1つ効率よくできれば」こなせるという感触、それが収穫だった。「次、ノーミスします」と力強く宣言した。

 こんなに気持ちが奮い立つのは「昨年のスケートカナダ以来」。昨年11月にパトリック・チャンに敗れ2位となり、約1カ月後のNHK杯で完璧に演じ、世界最高得点(その後GPファイナルで更新)をマークした1年前と状況が重なる。4回転ループを入れたことでSP、フリーの基礎点は昨季より高く、ノーミスなら記録の再更新もある。

 オーサー・コーチは「まだ長いシーズンの初戦。満足」と及第点を出したが、羽生には関係ない。「次に一皮と言わず、10も20も皮がむけた、こういう羽生結弦を待ってた、という演技ができるように楽しみながら練習していきます」。次戦のGPシリーズ第2戦スケートカナダ(10月28日開幕、ミシサガ)で完璧な「羽生結弦」をみせる。

<羽生と一問一答>

 -再び4回転ループを成功。このジャンプを入れる影響は

 ループのせいで疲れた感じではない。もっとすべてのジャンプを効率よく跳ぶ方法がある。前半2つ(の4回転ジャンプに)にガーッといってしまった。プログラムは1つでプログラムなので。流れを大事にしながら練習する。

 -具体的には

 今回はかなりステップに注意を傾けた。1つ1つのエッジも、体の動き方も意識できた。その上での呼吸の仕方とか、そういうものが足りない。

 -4回転ジャンプ4度を実際やってみて

 しんどい、でも楽しい。日本ではジャパン・オープンがあって、宇野(昌磨)選手は198点を取り、ハビエル(フェルナンデス)もいい出来だった。自分はこういう演技をして、ふがいないと思うが、そのふがいなさが全然マイナスに思えない。むしろ、にやけが止まらないぐらい。早く、練習したい。

 ◆正式認定 国際スケート連盟(ISU)は2日、羽生がISU公認の大会で史上初の4回転ループを成功したと正式に認定した。9月30日のオータム・クラシックのSPで決めた。ISUは、羽生が4回転ループをミスなく跳び、回転も足りていたと審判団が認定したことを明らかにした。