全日本柔道連盟(全柔連)の上村春樹会長(62)が26日、辞意を明かした。この日、指導者助成金不正受給問題を調査する第三者委員会が中間報告を公表。組織としての問題点を指摘され「管理責任は大きい。近いうちに進退を明らかにしたい」と、6月の定例理事会での辞任を示唆した。理事の互選で決まる後任会長には、山下泰裕理事(55)の就任が有力。指導者の暴力、助成金問題と不祥事が相次いだ柔道界のトップが、ついに交代する。

 上村会長の表情は硬く、声は震えていた。第三者委員会から指摘された組織としての問題点。「順法精神が欠如している」という厳しい内容を「重く、真摯(しんし)に受け止めたい」と話した。さらに「近いうちに、進退を明らかにしたい」と辞意をもらした。

 1月末に発覚した女子代表指導陣の暴力、さらに助成金不正受給、会長としての責任を問われても「改革が私の責任」と進退には触れなかった。ところが、この日は会見の冒頭で自ら口を開いた。会長自身が強化委員長時代にもあった強化留保金について「互助会的な考えだったが、認識が甘かった。全柔連のあり方を反省している」と話した。

 ただ、辞任の時期には含みを持たせた。暴力問題などの改革プロジェクトがスタートしたばかり。「途中で投げ出すわけにはいかない」。今日27日の臨時理事会でも、進退には言及しない予定。「6月の定例理事会までは、辞めることはない。状況を踏まえた上で考える」と、最短でも辞任は2カ月後になるとした。

 上村会長は「まだ辞めると決めたわけではない」と言いながらも、次期会長について「理事会の互選になるから、みなさんで考えること」と話した。有力なのは山下氏。改革では核となる「暴力根絶」のリーダーを務め、6月から上村氏に代わる日本オリンピック委員会(JOC)理事就任も決まっている。東海大副学長など要職にあるが「仕事を整理し、柔道界に恩返しがしたい」と話していた。

 次期会長には藤田弘明副会長(74)の昇格という選択肢もあるが、スポーツ界にはクリーンなイメージで五輪招致へのイメージアップにもなる山下氏待望論が根強い。09年4月から全柔連会長と講道館長を兼務してきた上村氏は続投を明言した講道館長として側面から山下体制をサポートすることになりそうだ。相次ぐ不祥事で社会的信用を失った柔道界。「1度、立ち止まって考えないといけない」と上村会長は話したが、すでに新しい時代に向けて動きだしている。

 ◆山下泰裕(やました・やすひろ)1957年(昭32)6月1日、熊本県山都町生まれ。小学4年から柔道を始め、東海大相模高3年時に全日本選手権3位。77年全日本選手権に19歳で史上最年少優勝、以後85年まで9連覇。世界選手権は79、81、83年と2冠を含み4回優勝した。84年ロサンゼルス五輪無差別級金メダルで国民栄誉賞を受賞。85年の引退後は男子日本代表監督、男子強化部長、強化副委員長、国際柔道連盟理事などを歴任した。