【サンクトペテルブルク(ロシア)30日=吉松忠弘】女子レスリング五輪3連覇の吉田沙保里(30=ALSOK)が、ソフトボール北京五輪金メダルの上野由岐子(30)を迎え撃つ。国際オリンピック委員会(IOC)理事会は、20年夏季五輪で実施する最後の1競技に、最終候補としてレスリング、野球・ソフトボール、スカッシュの3競技を選んだ。採用競技が決まる9月のIOC総会(ブエノスアイレス)は、吉田対上野の金メダル対決となる。

 歓喜の表情から、一転して吉田の表情が厳しくなった。レスリングに五輪存続の道が残ったとはいえ「まだ通過点。9月には決勝戦がある」。レスリングを含む3競技の内、採用されるのは1競技だけ。今回のIOC理事14人ではなく、約100人のIOC委員過半数の投票を取らなくては採用がない。

 野球・ソフトボールが最終候補に残ったことで、日本にとって、メダル候補競技が1枠を争うことになった。特に、ソフトの上野とは同学年で北京五輪でともに金メダルを獲得した。しかし、吉田は「冷たいかもしれないが、レスリングのことしか考えていない」と、宣戦布告だ。

 サンクトペテルブルクまで足を運び、会場で世界女王として、先頭に立ってロビー活動をした自負がある。「初めてこういう経験ができて、違った意味での戦いがあると知った。(五輪に)残らないと、ここに来た意味がない」。その実感が、仲間にも厳しい言葉になって表れた。

 喜びは一瞬だけだ。IOCのアダムス広報部長がいの一番にレスリングの名を呼び上げた時、「跳び上がるぐらいにうれしかった」。日本レスリング協会の福田富昭会長と抱き合った。その日の夜には、福田会長の音頭で、応援に駆けつけた同協会副会長で、元プロレスラーの馳浩衆議院議員らとともに、ブエノスアイレスに向けた決起集会を市内のレストランで開いた。

 IOCは、完全にレスリング存続の流れに傾いた。2月の理事会で、25の中核競技から外した決定に、他のIOC委員から批判が相次いだ。今回の投票でいの一番に選出されたのも、レスリング存続への外圧に押された証拠でもある。野球・ソフトボールの国際連盟関係者でさえ「残念ながら9月に当選するのは我々ではなくレスリングだ」と語るほどだ。

 そのブエノスアイレスに、吉田が再び乗り込む可能性もある。直後の9月16日から、11連覇がかかる世界選手権(ブダペスト)があるだけに、吉田は「会長と相談して」と話すにとどめた。福田会長も「試合が優先だが、できれば連れて行きたい。可能性はゼロではない」と前向きだ。決戦舞台まで約3カ月。「勝負です」と、吉田が試合の時と同じ顔になった。