<フィギュアスケート:GPシリーズ第1戦・スケートアメリカ>◇25日◇シカゴ

 昨季の世界選手権銀メダリストの町田樹(24=関大)が圧勝で2連覇を飾った。独走のSP首位から出たフリーでも、1人だけ次元の違う滑りを披露し、175・70点で1位。合計269・09点で2位を約35点も引き離し、GP通算4勝目を飾った。今季の目標は「打倒、結弦」。世界選手権でも僅差で敗れたソチ五輪金メダリストの羽生結弦(19)と渡り合うために、最高のスタートを切った。

 今季初戦にして、いきなり観客を圧倒した町田は大きく肩で息をしながら、放心状態でひざを折った。リンクに突っ伏す。「交響曲第9番」を作曲したベートーベンのように長い巻き髪も大きく揺れる。12年12月、GPファイナルと全日本選手権に惨敗し、頭を丸刈りにしてから2年弱。「人生最長」に髪が伸びるほどに成績も伸び続け、「過酷だったが、歓声で全てが報われた。今の時点の100%。満足している」と自信満々に振り返った。

 冒頭の約10秒間、曲が流れ始めてもポーズを決めて動かない。一気に会場の視線を引きつけ、「第9」を表現していった。冒頭の4回転、続く4回転-2回転ジャンプ。安定感は前日のSPと変わらない。誰もが知る曲だけに「水準が高くないと、埋もれてしまう」と覚悟があった。曲に戦わせるように技をぶつける。「歓喜の歌」の合唱パートに入ると、ほほ笑んだ。終盤は得点源の3回転半を2回転半に抑え、3回転フリップは手をつくミスで3連続ジャンプにできなかったが、「まだ伸びしろがある。軽く20点ぐらいは上がる」と前向きにとらえた。

 「(来季は)ぶっつぶしにいきます!」。過激な発言を羽生に面と向かって口にしたのは、3月の世界選手権で0・33点差で敗れた直後だった。ただ、本人は「僕なんて3カ月もしたら忘れられる」と冷静でもあった。まだ「ライバル」と呼ぶには実力差はある。年下など関係なく、冷静に認めた。実際、今も街では声も掛けられない。それでも、「今季の初対戦までに『樹くるな、うかうかしてられないな』と思わせたい」とひそかに燃えていた。

 そして、狙い通りの圧勝劇。「ライバルにボールを投げることができた。羽生選手らがどう打ち返し、僕に投げ返してくるのか。勝負を受けてやるという強い思いはある」。剛速球を投げた。ただ、もっと球威は増せる自信もある。次戦は来月のフランス杯。「剛腕」の調子はすこぶる良い。