<大相撲初場所>◇14日目◇24日◇東京・両国国技館

 横綱朝青龍(28=高砂)が復活優勝へ王手をかけた。大関魁皇(36)を寄り切って14戦全勝を飾った。25日の千秋楽で、1差で追う横綱白鵬(23)と激突する。負けても優勝決定戦があるが、一発勝負で、単独4位となる23回目の賜杯をつかむ意気込みを見せた。引退危機に追い込まれていた場所前には、恩師の前で涙した元最強横綱が「最強」の座を取り戻すために本割の一番にかける。

 迎えの車に向かう地下の通路。朝青龍は、ポツリと決意を口にした。「千秋楽は、本割しか考えていないですか?」と問われると、即座に返した。

 朝青龍

 うん。それしかないよ。

 支度部屋でも「一番」にこだわっていた。初日から1度も「優勝」という言葉を口にしない理由を問われると、「何も考えていない。明日は明日の一番がある。後は流れだ」とぶっきらぼうに答えた。

 取組前に白鵬が千代大海を退け、賜杯の行方は千秋楽に持ち込まれた。だが、顔色は変わらない。素早く立ち合い、左を差して右上手をつかんだ。「左四つ」は魁皇が得意の形だが、先手で右上手投げを仕掛け、魁皇の頭を押さえた。投げは決まらずも、左かいなを返して魁皇には右上手をつかませない。最後は右を引き付け、相手の体をのけ反らせての万全の寄り切り。尻上がりによくなる相撲内容を淡々と振り返った。

 朝青龍

 まあ、いつも合口が悪い相手だから、先に右上手を取ろうと思った。そう、攻めないとね。

 いつも以上に口数は少ない。「今場所の白鵬関の相撲をどう思うか」と聞かれると無言になった。

 心に期するものがある。3場所連続休場が明けて冬巡業に向かった昨年12月1日、朝青龍は1人涙した。九州場所を最後に定年になった元床寿の日向端隆寿氏から「このまま終わったら、単に『22回優勝した横綱』になってしまうぞ。もう1度優勝しなきゃ」と声をかけられ、抑えていた感情があふれだした。泣きながら「分かりました」と返し、初場所出場を決意すると日向端氏に「(優勝パレードで使う)オープンカーで待っていてください」と力強く約束していた。

 引退危機を乗り越え、奇跡の全勝復活Vへひた走る朝青龍を見つめ、この日も支度部屋を訪れた日向端氏は言った。「いい顔をしている。昔、10本あった角が3本に減って、そのうち1本もグラついていたけど、また勝ち気な朝青龍に戻ってきたよ。うん、何とかなる。オープンカーに乗りたいね」。

 現在最強の白鵬に勝てば、横綱貴乃花を超え、歴代単独4位の23回目の優勝となる。過去の白鵬との本割は12勝6敗、優勝決定戦は1勝1敗。だが、場所前の横綱審議委員会けいこ総見では、1勝6敗と圧倒された。5場所ぶりの復活Vは簡単ではない。それでも朝青龍は一発勝負で、5歳下の横綱を仕留めに行く。【柳田通斉】