大相撲の玉ノ井部屋が、被災地復興に一役買った。福島原発から約40キロの福島県相馬市で行っていた夏合宿を21日に打ち上げ。津波の被害に遭った稽古場を復活させ、3週間の合宿中は自家発電でしのぎ、福島の農産物を中心に生活した。風評被害を吹き飛ばすべく、毎日の朝稽古を公開し、地元の人たちを喜ばせた。

 合宿地から海まで、100メートルもない。稽古場からは、がれきの山が見える。そんな環境の中、例年通りに夏合宿を終えた。玉ノ井親方(元大関栃東)は「町の人が見に来て、喜んでくれた。こういう時期だから、来ないだろうと思っていたみたい。市長さんにも『こんな時に来てくれるとありがたい』と言ってもらえました」と振り返った。

 先代の玉ノ井親方(元関脇栃東)の志賀駿男さんが育った縁で、約20年前から相馬市で夏合宿を続けてきた。支援者の寄付金などでつくられた現在の道場は、04年から使用する。だが2メートル以上の津波の影響で、土俵は浸水し、冷蔵庫や洗濯機は使えなくなった。ボランティアや力士たちが土を入れ替えるなどの復旧に努め、合宿にこぎつけた。

 先代は言う。「ここは放射能が少ないのに、風評被害が起きてる。牛を飼っている人に会ったら、泣いてた。かわいそうで仕方ない。ウチは福島県の野菜を食べてる。まったく気になりません」。食材は後援者のスーパーを通じて仕入れ、力士たちはモリモリ食べた。この日の午後は、バーベキューで力をつけた。

 不便もあったが、誰も文句は言わなかった。自家発電のため、猛暑の日も大部屋はクーラー厳禁で、トイレは仮設。19日午後には、地震の後に津波警報が出て、力士全員が高台に避難したこともあった。一方、地域交流のため、盆踊りに参加した。被害が少ない地域での「売り市」でちゃんこを振る舞い、売り上げを震災孤児のための義援金に充てた。

 本業も忘れていない。1年前、1人もいなかった関取は2人になった。幕内富士東は7月の名古屋場所で2ケタ勝利を挙げた。秋場所での新入幕を確実にした十両芳東は「2人が(十両以上に)上がったので、喜んでもらえた。今回はいつもと違う合宿になるかと思ってたけど、普段通りに歓迎してもらえました」と喜んだ。相馬で培った力を披露する秋場所は、9月11日に初日を迎える。【佐々木一郎】