何事もプラスに捉えれば、得るものはある。オープン戦が無観客になり、いろんなものを感じさせてくれた。ミット音、打球音は新鮮だった。初めて捕手をやり、ミットの芯で「バチッ」と捕った時の感覚、相手打者を「グシャッ」と詰まらせた時の喜びを思い起こさせてくれた。プロでは音がはっきり聞こえる環境は少ない。秋季キャンプの紅白戦ぐらいだろうか。

無観客の試合が続くと、ファンの大事さがあらためて分かってくる。横浜スタジアムでは試合中に横浜港から船の汽笛が聞こえたが、初めての体験だった。本来は点を取ったり、0点に抑えて大声援に迎えられ、聞こえない。当たり前と感じていたことが、プロ野球にとって何より必要な力になる。ヤジも「今度は見てろよ」とかき立てられる。忘れてはならないことだ。

11年の東日本大震災の時も、オープン戦が無観客になることもあった。もちろん今の新型コロナウイルスとは状況が違う。当時、私は心のスイッチのオンオフを考えてプレーした。いつもファンに見られることで自然とオンになる。無観客の状況では難しくなるし、1日楽にやろうと思えばできてしまう。不安に襲われた中で気の抜けた姿は見せたくないと、とにかくスイッチを入れ続けて100%考え抜いて臨んだ。感情のコントロールを学べたことは後の野球人生に生きた。

すべての人が大変な思いをしている。一方で今後の球界を背負う選手が出始めている。オープン戦に出場したプロ2年目のロッテ藤原、中日根尾のポテンシャルは高い。シーズンが延びたことでロッテ佐々木朗、中日石川昂らが1軍の出場を増やすかもしれない。佐々木朗は半端ないし、どのレベルに達するか想像できない。石川昂もモノにならなきゃいけないと思わせる素材だ。次世代の成長が楽しみなシーズンになることを信じて、開幕を待ちたい。(日刊スポーツ評論家)