勝ち星はつかなかったが、日本ハム加藤貴之は大胆さと繊細さが同居するピッチングを見せた。打者32人に対し初球ストライクから入ったケースが29人。初球ストライクの確率は91%にも及ぶ。これは佐々木朗希が完全試合を達成した時の67%を大幅に上回る。

ストライクで先手を取りながら、それでも終盤までオリックスに的を絞らせなかった。ストレート、スライダー、シュート、カットボール、スローカーブ。あらゆる球種でまんべんなくストライクを取っている。スローカーブによって緩急がつき、さらにスライダーとカットボールによって、変化球の曲がりにも強弱がつく。

4巡目に入り、さすがに紅林が初球を左翼へ同点2ランとしたが、そこまで付け入る隙を与えなかった内容はレベルが高かった。そして、失点直後もしっかり初球ストライクを取り吉田正、頓宮を打ち取っている。1発からガタガタと崩れなかったところにも、今季の加藤の好調の要因が見えてくる。この調子を維持すれば、今シーズンの加藤は大きく期待できる。

オリックスからすれば、エース山本由伸の投げる試合は勝たなければならない。加藤とは対照的に山本はボール先行も散見され、3連打された4回は近藤、松本剛にボール先行から打たれている。いくら山本でも、やはりカウントが不利になれば苦しくなる。

さらに無死一、三塁で打者野村の4球目に一塁走者がスタート。ベンチからセカンドスローのサインが出ていたと思われ、捕手若月は二塁に送球するもショートバウンド。安達が捕れず三塁走者の生還ばかりか、盗塁も許した。私の推測通りにベンチのサインだったとすれば、これは結果として日本ハムベンチとの駆け引きに負けているのだから二塁送球は仕方ない。

ただ、ここはダイレクト送球が必要な場面だった。若月はこの試合で2度、ワンバウンド送球をしている。山本は前回登板も失策で足を引っ張られ勝ち星を挙げることができなかった。オリックスとしてはエース山本が投げる試合は勝たなければならない。昨年、15連勝で優勝へ加速したように、山本が投げる試合ではわずかなミスも出さず、確実にエースに白星をつけたいところだ。(日刊スポーツ評論家)

日本ハム対オリックス 4回裏日本ハム無死二、三塁、石井に先制右前適時打を許し、悔しそうにロージンを投げつける山本(左から2人目)(撮影・浅見桂子)
日本ハム対オリックス 4回裏日本ハム無死二、三塁、石井に先制右前適時打を許し、悔しそうにロージンを投げつける山本(左から2人目)(撮影・浅見桂子)