日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(41)が球界の話題を掘り下げる「鳥谷スペシャル」が今季もスタートします。
23年第1弾のテーマは「応援のあり方」です。新型コロナウイルス禍を乗り越え、声出し応援が解禁されたシーズン。4月には阪神、中日が相次いで「誹謗(ひぼう)中傷や侮辱的な替え歌」などについて注意喚起しました。今後、野球界の応援スタイルはどう変化していくべきなのか。虎のレジェンドOBが私見を語ってくれました。【取材・構成=佐井陽介】
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声出し応援が解禁されたこともあって、最近はヤジのあり方も注目されているようですね。自分の現役時代はヤジを言われるのも仕事の一部、給料の一部という認識がありました。大前提として、ヤジを言っている人たちもお金を払って球場まで足を運んでくれているわけなので。ただ一方で、応援しているチーム、選手への叱咤(しった)激励と相手チームに対する侮辱のバランスが取れていないなと感じるケースがあったのも事実です。
現役引退後は解説者、評論家として観客席の近くにいる時間が増えました。実際に耳を傾けてみると、ヤジにもいろんな種類があるのだと気付きました。中には直接選手に届けたいわけではなく、ただ単に周りのお客さんを笑わせたいだけの人もいました。せっかくお金を払って球場に来ているのだから、いろんな楽しみ方があってもいい。ただヤジを飛ばすにしても、相手に対するリスペクトだけは欠いてほしくないと強く願います。
よく話題に挙がりますが、たとえば相手チームの投手がノックアウトされて降板する際に歌われる「蛍の光」。あれは応援されている側の選手として聞いていても、決して気分がいいモノではありませんでした。せっかく押せ押せムードなのだったら、相手チームを冷やかすのではなく、自チームを声援で後押ししてくれた方が選手もうれしいのではないでしょうか。
重要なポイントは「敬意」だと考えます。相手チームも含めて選手がグラウンドでプレーしてくれるから、お客さんは野球を楽しめる。球場まで来てくれるお客さんがいるから、選手は野球ができる。そう考えればヤジの質、ヤジに対する受け止め方は必然的に変わってくると思います。
個人的には、単純にすべてをひっくるめて「ヤジは言わないでください」となってしまうのも悲しい。球場を盛り上げてくれるものもあれば、叱咤激励のおかげで力を発揮できる選手も実際にいるので。ただ、本当に心の底から頑張ってほしいと思って言ってくれているモノか、それともただ憂さ晴らししたいだけのモノなのかは大きく違いますし、相手にも伝わるもの。だからこそ相手へのリスペクトだけは忘れないでほしいのです。
今、野球界は岐路に立たされているように感じます。自分たちが子供だった頃は野球かサッカーに興じる割合が大多数でしたが、今はスポーツの選択肢が比べものにならないぐらい増えている。そんな時代で子供たちに野球を選んでもらうためには、少しずつでも余計な外的要因を減らしていく必要があるのではないでしょうか。「丸刈りにしないといけない」という風潮に変化が生まれているように、応援や声かけのスタイルも変化のタイミングに来ているのかもしれません。
必要以上に相手チームや選手を大声で侮辱したり、相手チームのマスコットを引きずったりすることが、移りゆく時代の中で今にマッチしているのかどうか。応援をアップデートする必要性を感じている人も少なくはないはずです。せっかくWBCで野球熱が高まり、各国の応援スタイルも知ることができたタイミング。子供たちが安心して観戦できる、女性だけでも気軽に見に行ける環境を、自分も含めてみんなで作り上げていきたいものです。
◆球団発の注意喚起 今季から声出し応援が解禁に。阪神は4月14日、球団公式サイトで「重要・応援に関するお願い」と題して「『選手を誹謗中傷するようなヤジ』や『侮辱的な替え歌』は絶対におやめいただきますようお願いいたします」と注意喚起。翌15日には中日も球団公式サイトで「チーム、個人を傷つけるような発言や応援歌にあわせた侮辱的な替え歌の合唱など、相手を誹謗中傷する言動は絶対にやめていただきますようお願いいたします」と訴えた。




