石川の技術、中村の頭脳の合作で織りなす幻惑投法が、22年連続勝利をなしえた。ぜひアマチュアの選手には、石川と中村が見せたピッチングの中身を見て、感じてほしい。
石川は打者20人に対して初球ストレートが45%。カットボール、シュートのストレート系の変化球が30%。つまり初球の入り方は、75%の高確率でストレートか、それに準ずる変化球という数字だった。
これは何を意味するかというと、早いカウントで速いボールを見せている。130キロ前後のストレートだが、この“速さ”を打者に印象づけることで、あとの変化球が効く。
石川と言えば多彩な変化球という印象だと思うが、その強みを生かすため中村が巧妙に仕掛けている。打者の対応を見てストレートか、もしくは危ないなと感じればちょっと曲げる危機管理を怠らない。初球を打たれたヒットはなく、4安打はいずれも2球目以降。バッテリーの思惑は功を奏した。
さらに、同じ球種を続ける確率は13%という低さ。同球種を続けるメリットは精度が上がること。デメリットは甘いボールはさらに甘くなり、残像がある打者はとらえやすくなり、痛打の可能性は高まる。
こうした中村の組み立てを成立させたのは、石川の洗練された技術と言える。同じ腕の振りで、カーブやスライダー、シンカー、チェンジアップなどを精度高く投げる。変化球の中でも球速、変化量、緩急に少しずつ強弱をつけ、打者に的を絞らせなかった。
打者は決して速くないストレートを見せられ、変化球で仕留められていく。まさに、石川と中村の合作と呼ぶにふさわしい内容だった。
プロ野球で、先発投手が22年連続勝利というのは、至難の業だ。佐々木朗、大谷などの160キロ剛速球に代表されるスピード全盛期に、石川の技術は異彩を放つ。このスタイルを確立し、クオリティーを磨いてきた真骨頂だった。
この勝ち星が意味するものは大きい。試合を作れて、援護点があれば確実に勝てるその存在は大きく、スピードボールのないピッチャーには大きな希望となる。
並大抵の努力ではないと思う。打者との駆け引きの中、130キロ前後で勝ち続けるその姿勢は、私たちに教えてくれる。球速じゃない球質だ、と。(日刊スポーツ評論家)