プロ野球・日本ハムは23年春、北広島市に「北海道ボールパーク」を開業する。日刊スポーツでは、月1度の長期連載をスタート。開業までを追うとともに、同施設の現状、魅力、期待などに、多角的な視点で迫っていく。第1回は「建設予定地・北広島のいま」。着工は来年春予定だが、水面下では「静かに、だが確実に」、北広島、そして北海道全体が変貌しつつある。



建設予定地・北広島のいま

世界がまだ見ぬボールパークづくりが、本格的に動きだした。10月7日、北広島市内にある建設予定地で、造成工事が始まった。

「2023 PLAY BALL」

JR千歳線沿いに掲げられる看板には、約3年半後に誕生する日本ハムの新球場完成予想図が描かれている。車窓から見ることができる夢の空間は、これから着々と現実になる。北海道にとっても歴史的な転換期を迎えている。

その中心地、北広島。同市の企画財政部長兼ボールパーク(BP)推進室長の川村裕樹氏(49)は「『こういうことで関われないか』『こんな風に参加できないか』と考える事業所や団体さんが出てきて相談を受けています。もう少ししたら〝うねり〟になる」と実感する。地元商工業者の中ではすでに、ボールパーク誕生を見据えた事業の新展開が検討されている。中小企業が減り、全国的に会員数が右肩下がりの商工会にあって、北広島のそれは数が伸びている。


新球場誘致の経緯を語る北広島市の川村企画財政部長兼ボールパーク推進室長(撮影・本間翼)
新球場誘致の経緯を語る北広島市の川村企画財政部長兼ボールパーク推進室長(撮影・本間翼)

球団のBP構想=スポーツでまちづくり

新球場誘致に最前線で取り組んだのが川村氏だった。夢を現実に変える起点は、誘致表明の3年以上も前。「どのくらいの規模で市営の球場をつくったら、ファームの試合をやっていただけますか?」。〝塩漬け〟になっていた運動公園予定地の活用を模索し、球団事務所に相談に行ったのが発端だった。

そこで耳にしたのが、球団の壮大な夢プラン「BP構想」。驚きと同時に、チャンスと捉えた。全国の球場を1人で見て回り、BP構想=まちづくりに行き着いた。誘致を成功させて、北広島を生まれ変わらせる―。当初は「なぜ税金を使って誘致活動を行うのか」など市庁舎内にも反対意見はあった。「スポーツは観光にもできるし、まちづくりにも生かせる。プロ野球って日本の文化。その本拠地を置くことで、いろんな意味で人の流れも変わり、お金で買えない価値がある」。根気強く説明して回った。


札幌市や千歳市などと連携

日本ハムが道民の生活の一部になっていることも大きかった。「野球を見ない人たちの頭の片隅にも、『ファイターズ』というキーワードはあった。誇りに思っている方々がいた」。地道な活動の成果は、出た。18年10月31日に建設地決定の一報を受けた。

今後はBP建設と並行して、札幌方面からのアクセス道路の新設やJR新駅の設置など、人を呼び込むための課題解消にも取り組む。北広島だけでなく、札幌市や江別市、千歳市なども参加する「オール北海道ボールパーク連携協議会」も動き始めている。難題も多いが、同氏は乗り越えた先を見据える。「野球を好きな人だけがチケットを買って見る、という時代じゃなくなってきている。(北海道BPは)プロスポーツと(ファン、市民と)の関係の中で、次のモデルになると思っているんです」。野球観戦は、BPのほんの一部でしかない。道産食材が並ぶマーケットに、湖畔では豪華設備でのキャンプ(グランピング)も行える。世界に誇れる魅力的な北海道の新シンボル誕生へ―。北の大地は今、新時代の夜明け前だ。【特別取材班】


日本ハム担当記者が歩いてみました


新球場建設予定地周辺はいま、どうなっているのか。日本ハム担当の木下大輔記者が地元の声を聞きながら、変革の時が迫る地を歩いてみました。


<写真1>
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地図を持って、北広島駅の改札を出た<写真1>。西口から出て、広いロータリーを抜け、「北進通り」を右へ曲がった。住宅街を抜けていくと、5分ほどで目指していた新球場建設予定地の入り口にたどり着いた<写真2、3>。


<写真2> <写真3>
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訪れたのは、平日の昼前。腹が減っては歩くこともできぬ…と目に入ったのが「海転寿司シーランド」。迷うことなく、飛び込んだ<写真4>。


<写真4> <写真5>
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店主の横岡茂樹さん(46)が出迎えてくれた。おそらく建設予定地に一番近い飲食店。「取材依頼も多いですね。テレビもいくつか来たいと行ってくれましたが、人手もいないので、ごめんなさいと断っていました」。注目度はもっと増していきそうだが「ウチはできることしか、できないので」と堅実。これからやってくる新時代へ向けて、気を引き締めているように思えた。


<写真6> <写真7>
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すしは美味だった。腹ごしらえを終えて、建設予定地方面へ<写真5>。聞こえてくるのは、北広島高校の生徒たちの元気な声くらいだ<写真6>。広大で、幻想的でもある同所が生まれ変わる。胸を高鳴らせながら、今度は北広島市役所方面へ<写真7>。BP建設をPRする、のぼりなどが多く立てられている<写真8、9、10、11>。


<写真8> <写真9>
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<写真10> <写真11>
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さらに期待感をあおられて足を伸ばすと、甘美な誘いが…。目の前に現れた「お菓子の安寿真 北広島店」に突入した<写真12>。


<写真12> <写真13>
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社長の東隆史さん(44)は北広島商工会の会員。「人が来るようになれば、街自体も変えていかないと。面白いところはボールパークしかないから帰ろうじゃ、もったいない」。新たなまちづくりへ向けて、みんなで知恵を絞る。北海道の新シンボルが地元にできる責任感さえ、感じさせた。


<写真14>
<写真14>

名物「とろ〜り メープルプリン」を手土産に購入。駅へ向かって帰路に就いた<写真13、14>。まだ、歩いて見える光景は目に見えて変わっていない。それでも、取り巻く環境は確実に変わってきている。地元では、それぞれのスタンスで、来る日を待っているようだ。


完成予想図
完成予想図