涙は1つもなく、次のステージに目を向けていた。中日森野将彦内野手(39)が今季限りで現役を引退。9月24日広島戦で行われた引退試合では終始、晴れやかな表情だった。「僕らしいでしょ」と笑った。来季は打撃コーチとしてチームに残る予定。次は指導者としてチーム再建を担う。

 試合後の会見ではさっそく後輩たちへハッパを掛けた。「ナゴヤドームは打者に厳しいと言われ、本塁打が出にくいとも言われる。でも僕は苦手とは思っていない。いいわけにせずにやってほしい」。07年はシーズンで放った18本塁打の中で8本が3ランをマーク。「ミスター3ラン」の異名を持つほどの勝負強さを見せ、日本一に貢献した。

 森野にはどうしても打撃のイメージが強かった。1学年上の荒木と話しているときに、そのイメージを覆される言葉を聞いた。「今まで会った選手で森野が一番、走塁がうまいよ」。二塁に荒木、一塁に森野と走者でいたら、1ヒットで本塁に戻ってときには荒木のすぐ後ろまで来ていることもあったという。浅尾は「いつも守備で助けてもらいました」。走攻守の3拍子そろった選手であったことがうかがえた。

 96年ドラフト2位で東海大相模から入団。1年目の97年にプロ初安打が初本塁打という華々しいデビューを飾ったが、決して順風満帆ではなかった。外野にも挑戦。「正直、練習しか思い出せない」と話すほど、汗を流す日々だった。

 チームは今季で5年連続Bクラス。苦楽を知る森野だからこそ教えられることはたくさんあると思う。1人でも多くの若きスラッガーを育て上げてほしい。【中日担当=宮崎えり子】