眉間に寄っていた皺が、一気に引いた。9月25日の神宮でのヤクルト戦前の練習中だった。打撃不振だった巨人坂本勇が、侍ジャパンの稲葉監督から声を掛けられた。昨季に続いて今季も首位打者を狙える位置につけていたが、8月は打率2割2分1厘と低迷。9月も快音がひそめていた。

 あいさつもそこそこに、2人が身ぶり手ぶりでスイング談義を始めた。約5分間、三塁側ベンチ前で話し終えると、坂本勇はもやもやが吹っ切れた表情で、ベンチ裏に引き揚げた。

 後日。坂本勇に会話の内容を聞いた。「ポイントはお尻です」と打撃フォームの構えを取った。「お尻を落としすぎずに、体をひねってもいいから…」とバットを手に話しはじめたものの、すぐに黙り込んだ。「これは…説明が難しい。たぶん、言葉で言っても分からないと思いますよ。すみません!」と思い切り笑うと、取材を終えた。説明をいとわない坂本勇が照れ笑い混じりでこう言うしかないほど、一流のバットマン同士しかわかり得ない、高度な次元だったようだ。

 今季は打率2割9分1厘で、2年連続の3割達成はならなかった。それでも、神宮でのヤクルト戦後は24打数7安打1本塁打と復調ムードを見せた。11年連続のCS出場があれば…と残念でならない。来年は年がら年中、坂本勇のバットから快音が響く1年にしてほしい。【巨人担当=浜本卓也】