その涙がなければ、五輪選手だったかもしれない。巨人柿沢貴裕内野手(23)は小学6年の時に号泣し、柔道を辞めた。「大会でも優勝してたし、本気で柔道をやろうと思ってたんですよ。自信もあったし、でも…」。心が折れるほどの惨敗を喫した相手は当時小学4年生だった妹の史歩さん。しかも、決まり手は押さえ込み。身動きを取ることもできない完全な力負けだった。「ショックで泣いて、野球に専念しました」と人生の大きな転換期だったと振り返る。

 柿沢の身体能力は高い。高校時代、神村学園ではエースで4番。12年センバツでは最速148キロを記録するなど、投打で活躍した。プロ入り後も内外野を守り、時には投手として登板することもあった。巨人で同い年の松原聖弥外野手(23)は「むちゃくちゃ身体能力がある。すごいプレーを簡単にこなす。なんでもできる」と評価。それほどの男が敗れた妹となれば、相当のものだ。

 柿沢が照れくさそうに言う。「実は妹、日本代表候補なんです」。史歩さんは名門・三井住友海上に所属。70キロ級の日本代表として17年の東アジア選手権で優勝するなど伸び盛りの選手で、東京五輪を目指している。

 素質あふれる妹に敗れて野球専念を決めた兄は「あれがなかったら柔道をやっていたかもしれないですね。東京五輪目指してましたよ」。涙があったからこそ、プロ野球選手の道が開かれた。今は1軍での活躍を目指し、練習を積み重ねている。【巨人担当 島根純】