ペンを持った手は、しばらく止まったままだった。6日の楽天戦(楽天生命パーク)の試合前練習が始まる前の一時。ベンチに座っていた西武栗山巧外野手(34)は、文化放送の人から短冊に七夕の願いを書き込むよう依頼された。ラジオ番組の企画らしい。

 「んー」

 うなりながら頭をひねる。2分は、たっただろう。結局「栗山巧」と名前だけ書いて終わった。

 「無心でいきますよ。無心で」

 神頼みはしなかった。

  ◇  ◇  ◇

 翌日の七夕の日。決勝点となる5号ソロを放った。2-2の8回2死、楽天宋家豪の外寄り142キロを「ド真芯で」捉え、逆方向の左越え。多和田に9勝目を贈った。直前の7回裏、2-0から2点を失い、同点に追い付かれていた。さらに、8回表の攻撃は、栗山の前の2人が連続空振り三振。完全に流れは楽天だった。そこで放った1発。一振りで劣勢をひっくり返したが、栗山は「展開は読んでなかったです。シンプルに。2死走者なし。思い切り振りにいこうと、集中しました」と言った。短冊に何も書かなかったのと同じ。余計な考えは捨て、無心で来た球を振り抜いた。

 七夕の夜、仙台は小雨模様だった。あいにくの天気となったが、よくよく考えたら、仙台の七夕祭りは8月だった。それは、ともかく、「優勝できますように」とか、「ケガしませんように」とか、さらっと書けば済むであろう依頼にも、真剣に考え、結局、何も書かなかった栗山。真摯(しんし)な人柄を垣間見たように思う。【西武担当 古川真弥】

楽天対西武 ヒーローインタビューで七夕の笹を持ち、願い事は「無心」の意味で名前だけを記した栗山(撮影・狩俣裕三)
楽天対西武 ヒーローインタビューで七夕の笹を持ち、願い事は「無心」の意味で名前だけを記した栗山(撮影・狩俣裕三)
楽天対西武 8回表西武2死、ソロ本塁打を放ち、チームメートとタッチを交わす栗山(右)(撮影・狩俣裕三)
楽天対西武 8回表西武2死、ソロ本塁打を放ち、チームメートとタッチを交わす栗山(右)(撮影・狩俣裕三)